子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

Feature Report特集レポート

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Report of India

村田の想い

このレポートで使われている写真の女性は全て、本文に登場する女性とは関係ありません。

村田の想い

Report of India

インド年次報告書

村田 早耶香Sayaka Murata

かものはしプロジェクト 共同創業者

 「こんなこと、絶対にあってはならない。」私は大学生のときに、売春宿にだまされて売られた6歳の少女に出会い、そう強く思いました。その子はたった一万円で売られ、虐待を受けながら無理やり働かされていました。何としてもこの状況を変えたいと強く思い、「かものはしプロジェクト」を立ち上げ、17年間活動しています。

 2002年、「子どもが売られる問題」がもっとも深刻だと言われていたカンボジアで活動を開始し、この問題がほとんどないと言える状態にまで改善されました。現在は、より問題が深刻なインドで活動しています。

 インドで出会ったサバイバー(人身売買の被害にあいながらも生き抜いてきた人)の一人、カイラ(仮名)。彼女は自分が経験した過去を受け入れ、自分と同じような経験を誰にもしてほしくないという思いで、今ではリーダーとしてこの問題に立ち向かっています。

カイラとの出会い

 カイラは、大人しく物静かですが、意思の強そうな大きな瞳が印象的な女性です。彼女は13歳のときにだまされて売春宿に売られ、15歳のときに村に戻ってきました。私が会ったとき、彼女は19歳になっていました。

 カイラはこう言っていました。「無一文で帰ってきた私に、兄は『金を出せ』と言ってきました。渡すお金も無いので拒否するとひどい言葉でののしられました。村の人も私のいないところで私の悪口を言いました。」売春宿で心身ともに傷ついて帰ってきて、村に戻ってさらに身内である兄に傷つけられたことに、私は強い憤りと悲しさを感じ、泣きそうになりました。

 しかし、彼女はさらにこんなことを言っていました。「でも、ウマ(かものはしのパートナーNGOサンジョグの代表)と出会ったことで、私の人生は変わったの。カウンセリングの中で、私は何も悪くないし、けがれてなんかいないって思えた。また、同じような経験をした女の子たちが前を向いているのを見て、私もそろそろ前を向かなきゃと思うようになりました。」カイラがウマとの出会いを経て、順調に回復してきたことを心から嬉しく思いました。

 「これからは何をしてみたい?」と聞くと、「ウマが私の人生を変えてくれたように、私も人の役に立つ仕事がしたい。ウマみたいに、困っている人の力になりたい。もしも私のことを悪く言ったり、攻撃してきた人が私を頼ってきたとしても、私はその人の役に立ちたい。なぜなら、昔の私みたいに、誰からも話を聞いてもらえないという経験をもう誰にもしてほしくないから。」彼女は穏やかにほほえみながらそう言っていました。彼女の身に起こったことを自分ごととして考えてみたときに、私はほほえみながら彼女と同じ言葉を口に出せるだろうか。とてもじゃないけれどそんなことはできないと思うと同時に、彼女の成熟した優しさに胸を打たれました。今まで、辛くて悲しいことが何度もあったはずなのに、過去の経験を乗り越え、強くてあたたかな優しさを身につけていることを感じて涙があふれました。

「彼女の身に起こったことを自分ごととして考えてみたときに、私はほほえみながら彼女と同じ言葉を口に出せるだろうか」

「被害者」から
「リーダー」へ

 彼女はその後、「昔の私みたいな思いを、他の子たちにはさせたくない」と、行動を始めました。人身売買の被害を止めるために、同じ被害にあった仲間たちとともに、互いに支え合うグループをつくり活動しています。このグループはシェルターにいる被害者や、村に戻った被害者を支えるための活動をしています。村の中での差別に負けてしまわないように、側にいて精神的なサポートを行い、被害者を励まし支えています。

 私はその話を聞きながら、同じ経験を持ち被害から回復しているカイラたちの姿は、被害者にとって「自分たちもこんな風になれる」という希望として映るのではないかと思いました。また、同じ目線で寄り添って話を聞いてくれる彼女たちは、安心して本音を話すことができる大切な存在になるのではないかと思いました。

 さらに、カイラは人身売買が起きている社会に対して、次の被害者を出さない社会をつくろうと声を上げる活動も行なっています。彼女たちは、加害者が適切に罰せられ、被害者が正義を取り戻すために仲間とともに人身売買問題に関心のある国会議員たちに会いに行き、人身売買を取り締まる新しい法案の必要性を直接訴えました。国政に関与している人たちに、思いを伝えたカイラたちの社会を動かそうとする意思に私は驚きました。被害にあい、村の中で差別され、攻撃されて悲しい思いをしていた被害者が、回復して自分を取り戻しただけでなく、こうして社会を巻き込んでいくリーダーになっていることを、本当に誇らしいと思いました。

 そんなカイラたちから、手紙をもらいました。「被害にあった女性たちを支援対象者として見る人は多いけれど、社会を変えるリーダーであると見る人は少ない。そんな中で、私たちに可能性を感じて、社会を変える力として応援してくれたことをとてもありがたく思っています。」常にサバイバーの声を聴き、ともに声を上げ、ともに活動をしてきたことは、とても大きな意義があったと実感しました。

 カイラのように、成熟した優しいリーダーたちが育っていることはとても尊いことです。また、彼女たちのように、多くの被害経験を持っている人たちが、過去の辛い経験を乗り越えて、自分らしい人生を取り戻せるように、これからも支援を広げたいと思います。

 そして、インドでのこれらの活動の学びをさらに他の国にも生かしていけるよう、これからも努力を続けます。

「過去の辛い経験を乗り越えて、自分らしい人生を取り戻せるように、これからも支援を広げたい」

ご支援への感謝

 カイラが受けたカウンセリングや、彼女たちの世の中の仕組みを変えるための取り組みは、ご支援いただいている皆さまからの寄付で行われています。ご支援のおかげで、カイラのように、被害を乗り越え成長し、地域の被害者を気にかけてサポートし、次の被害者を出さない社会を作ろうと働きかけているリーダーたちが生まれています。当団体の活動をご支援いただき、本当にありがとうございます。

村田 早耶香Sayaka Murata

大学在学中に子どもが売られる問題を知り、実際に問題が起きていた東南アジアの現場での深刻な現状を見て、最初は一人で出来ることから取組みを開始。20歳の時に共同創業者の本木・青木と出会い、かものはしプロジェクトを創業。以来、この問題の解決のために活動を続けている。

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