子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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インド反人身売買リーダーシップ連盟という大きなうねりとともに

こんにちは。

かものはしプロジェクト インド事業部のディレクターの清水です。

かものはしは、2018年2月からサバイバーリーダーシップ事業を支援しています。

この事業では、西ベンガル州とアンドラプラデーシュ州で、性的搾取の人身売買にあった被害者が、様々なNGOによる支援によって被害者からサバイバーへ、サバイバーからリーダーと成長することにより、サバイバーリーダーたちが直接政策立案プロセスに関与し、人身売買問題をシステム的に解決することを目指しています。

2019年9月までに、もともと2つしかなかったサバイバーグループは4つになり、158人がリーダーとして大きく、美しく成長してきました。今日は、そんな彼女たちが立ち上げたIndian Leadership Forum Against Trafficking (ILFAT、インド反人身売買リーダーシップ連盟)について、日本のサポーターの皆さまにご報告したいと思います。

ILFATは、来週11月19日、20日に正式な立ち上げ発表を行い、記者発表を行うとともに、政治家・官僚・メディアと会議を持ち、頓挫してしまった包括法案内容についてサバイバーリーダーたちがどう考えているのかを伝えることを予定しています。


サバイバーの『ために』から、サバイバーと『ともに』


サバイバーリーダーによる議員訪問

2014年ロンドンの国際会議で、人身売買問題に取り組む他のNGOやドナー関係者と、サバイバーがリーダーとなる可能性について話した時、私のその意見に同意してくれた人、その可能性を信じてくれた人はほとんどいませんでした。

多くの人にとって、サバイバーは被害を受けた「守るべき相手」であって、彼女たちが自分たちに必要な支援を自分で考えたり、NGOに意見を言ったり、何かの意思決定をしたり、政策に関与するなど、夢のまた夢だと言った人たちがほとんどでした。

そう、セクター全体がサバイバーの『ために(FOR survivors)』活動しており、サバイバーと『ともに(with survivors)』歩むという発想は、その当時このセクターにはほとんどなかったのです。

かものはしは前者を「福祉型」アプローチと呼び、後者を「ライツ(権利)ベース」アプローチと呼んでいます。「福祉型」アプローチと「ライツベース」アプローチには、どんな違いがあると、皆さんは思いますか?

例えば、救出され、村に戻ってきたサバイバーに、「今のあなたには、心理カウンセリングと職業訓練が必要だ」と、サバイバーに取って代わってNGOが決めることを、私たちは「福祉型」アプローチと呼んでいます。

一方、村に戻ってきたサバイバーに、NGOが質問票を持って会いに行き、質問票に沿って彼女のニーズを聞くなかで彼女と一緒にどんな支援が必要かを考え、彼女が次のアクションをとる(例えば地元政府に貧困削減県計画に基づいた住宅支援要請をする)ことができるようNGOがサポートするようなアプローチを「ライツベース」アプローチと呼んでいます。

この場合、あくまで、何の支援が必要で、そのためにどうしたいのかを決めるのはサバイバー自身であり、NGOの役割は彼女が意思決定できるよう必要な情報を提供することにあります。

 

サバイバーリーダーやパートナー団体とのMTGにて話す清水

 

身近な事例で考えてみると、例えば、私が『娘のため』と思って、娘の気持ちをお友達に話したとしましょう。そして、私はそのことを話してもいいか、娘に了解を取りませんでした。

なぜなら私にとって娘はまだまだ「子ども」であり、子どもである娘が言い出しにくいことを、母である私が代弁することは「正しいこと」で、「娘のためになる」と確信していたとします。だから娘とお友達がいるところで、娘の気持ちを代弁したとします。

娘はそれを見て、どう思うでしょうか?そうですよね、『勝手なことしないでよ!ママは全く私の気持ちが分かっていない!(激怒)』ということになります。

我が家の娘はライツベースの本質をよく理解しているらしく、自己主張がとても強いので、はっきり私にそう言いますが、シャイなお嬢さんはそう思っても、お母さんに伝えられないかもしれません。

「勝手なことしないでよ!(激怒)」という気持ちをずーっと押し殺して自分の中に蓄積させていると、いったいどんなことが起こりそうでしょうか?


当事者であるサバイバーが声をあげられるために


サバイバーリーダーたちが弁護士と裁判所を訪問

私たちは、インドの人身売買問題に関わるNGOや私たちのアプローチが、福祉型からライツベース型へ移行するための挑戦を続けてきました。

人身売買という非人道的な犯罪を解決するためには、適切な法律が定められ、システムが、定められた法律と制度に則って適切に運用されることで彼女たちが正義を手にできるよう仕組みを整えることが重要です。

でもそれだけではこの非人道的な犯罪を生み出している社会構造を変えるには不十分で、それと同時並行で、当事者である彼女たちが声をあげられるスペースを作ることが大切だと私たちは思っています。

そのスペースを作り出すためには、まずは私たちNGOが意図的にそのスペースから違うスペースへ移行する必要があり、加えてサバイバー自身が、受けた傷と痛みを癒し、もともと持っていたその人なりのリーダーシップが発揮できるまでに回復し、NGOがどいて空いたスペースに入ってくる、そんな過程が必要になります。

そしてサバイバーリーダーたちが周りにいるNGOや政府関係者や私たち国際社会と『一緒に』、社会を変えるために声をあげていく。それが、非人道的な犯罪を生み出している社会構造を変えるためには不可欠だ。

そんな想いをもって、私たちはずっとこの挑戦を、Tafteesh事業及びサバイバーリーダーシップ事業の中で続けてきました。

 

サバイバーのリーダーシップは、見る者の心を打つ


ミーティングで発言するサバイバーリーダー

ロンドンの会議から5年たった今、特に今年の後半に入って、より多くの関係者が、サバイバーのリーダーシップに注目し始めたことを感じています。

その背景には、アメリカの国務省が今年発行した「2019年人身取引報告書」でサバイバーのリーダーシップへの投資必要性に言及したこと、アメリカやイギリスの影響力のある反人身取引活動グループが、彼女たちのリーダーシップが人身売買の根本的な問題解決にインパクトを持ちうることに注目し、広く広報し始めたことなどがあると思います。

同時に、かものはしが支援している事業の中で成長してきたサバイバーリーダーたちは、2019年に入って次々とインド国内の様々な会議に呼ばれ、自分の想いや今の政策のどこが自分たちサバイバーにとって役に立っていないのか、サバイバーグループとしてどんな活動をしているのか、なぜその活動をしているのかを非常に明瞭な言葉で関係者に伝え始めました。

彼女たちのリーダーシップに宿る言葉とエネルギーに、これまで彼女たちのリーダーシップの可能性を微塵も信じていなかった人たちですら、驚かされ、心を打たれ、何か彼女たちと一緒にやりたいと、少しずつ行動変容を始めたことも関係があるような気がしています。事実、イギリスのいくつかの財団から、かものはしはどうやってサバイバーリーダー育成を行ってきたのか教えてもらいたいと聞かれています。

そして彼女たちのそんなパワーは、同じく人身売買の被害にあい、家に閉じこもって泣いてばかりだったほかの被害者を勇気づけ、地域にいながらにして見て見ぬふりをされてきた被害者がサバイバーへ、そしてリーダーへ変容していく入り口を作っています。

 


サバイバーリーダーたち、そして彼女たちをずっとサポートし続けてきたNGO関係者、かものはしチーム

最初は2グループ、37人しかいなかったリーダーたちが、この1年半のサバイバーリーダーシップ事業を通して4グループ、158人まで増えました。毎四半期、4グループの代表30名がカルカッタで一堂に会し、様々なワークショップと振り返りを一緒にする中で、州の壁を越えた、人身売買に立ち向かうサバイバーリーダー連盟を作りたい!という機運が高まりました。

彼女たちは、自分たちの直面する問題と願いが聞き届けられ、インドの人身売買防止のための仕組みづくりが重要であることを関係者に認知してもらうためにはどうしたらよいかを考えてきました。そこから考えられたのが、彼女たちが一つになり、全国連盟を結成することだったのです。

彼女たちはこの人身売買問題を解決するためには、頓挫してしまった包括法案を復活させ、立法させたいと強く希望しており、そのためにはより多くの人とつながって、全国連盟として皆で一緒に政府に申し入れをしたいそうです。

かものはしは、彼女たちのそんな想いと希望を実現できるよう、その連盟立ち上げ過程を急ピッチで支援してきました。そして、来週11月19日・20日に、インドで、ILFATの立ち上げを記念して、記者発表と政治家・官僚との会議を行う運びとなったのです。


サバイバーの声を届けるために ~ILFAT誕生の背景~

ILFATの立ち上げにあたり制作されたパンフレット表紙

サバイバーリーダーたちは、自分たちでこの連盟の名前、Indian Leadership Forum Against Trafficking (ILFAT、インド反人身売買リーダーシップ連盟)を決め、いくつか提案されたロゴ案の中からILFATのロゴを決めました。

すでにつながりのあった労働搾取を目的とした人身売買サバイバーや、性的搾取の人身売買サバイバー、NGOに声をかけたところ、8州の7団体が参加を表明したので、来週の正式立ち上げ発表の前に準備をするため、2019年11月4日、5日に11のサバイバーグループがカルカッタに集まり、ILFATとして初めての合同ワークショップを行いました。

 

この11のサバイバーリーダーグループの中には、現在性産業に従事している女性たちからなるグループも含まれています。彼女たちもまた、未成年時に何らかの形で性産業に入り、子どもとして商業的性的搾取を受けた被害体験をしています。

小学生や中学生の時に人身売買の被害にあい、工場に閉じ込められ、劣悪な環境の中で一日16時間の強制労働を強いられた男の子たちもいます。その環境で吸い続けた空気が原因で肺が腐り、手術を余儀なくされたサバイバー男性たちがいます。メイドとして「売られ」、給与をもらえずに身体的・性的虐待を受けながら働かざるを得なかった女性たちもいます。

話す言語も異なり、出身州も異なり、人身売買の結果自由を奪われた形態も異なりますが、そんな彼ら21人が対話を紡ぐ中で、受けた暴力や今なお続く「痛み」には同じ質感があり、リーダーとして立ち上がってきた軌跡には共通項があると深いレベルで感じ取ったとき、そこに「共感」が生まれ、一体感が生まれました。

その場に立ち会ったかものはしのインドチームからは、「人間が同じ人間をあたかも商品のように売り買いするという現実が本当にあり、その被害経験をした彼らが怒りと情熱と共感をもって立ち上がるプロセスに立ち会った。筆舌しがたい感情が自分の中に生まれ、自分の原動力につながった」と報告がありました。

 

来週、6人のリーダーたちが自分の経験とより包括的な法案を求めて、立ち上がります。日本で応援してくださっている皆さんとともに、そのプロセスをそっと支えることができるといいなぁと思っています。

そして、どんなことがそこで起きたのか、また皆さんにご報告できるのを楽しみにしています。

清水 友美Tomomi Shimizu

インド事業部ディレクター

2011年から2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。森と温泉が好き。

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