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人身売買のトラフィッカーが429人中たった3人しか有罪にならない現実

こんにちは、かものはしプロジェクトの早瀬です。

9月上旬、インドで、かものはしの主力事業であるタフティーシュ事業(※事業の概要は後述)の中で行われた調査がメディアや一般に向けて発表されました。

その調査結果についてご報告したいと思います。

 

10年間で有罪判決になったトラフィッカーは、429人中たった3人


調査では、タフティーシュ事業で取り扱っている過去10年間の、西ベンガル州とアンドラ・プラデシュ州における198件の人身売買の案件に関連する公的書類や、警察の記録などを分析しました。

そこから浮かび上がったのは、トラフィッカー(女性たちをだまして売春宿に売り飛ばす者)429人のうち有罪判決となったのは、たったの3人で、その刑は5年から7年の服役であったということでした。

一方で無罪判決となったのは10人で、何年も続いた案件の中で証拠不十分で無罪判決となっているのです。

また68人のトラフィッカーは保釈され、5人のトラフィッカーに関する捜査は10年以上に渡り続いていることがわかりました。

「有罪判決の少ない一方で無罪判決が多いことは、人身売買の案件において、法執行機関の捜査が効果的でないということを示しています。」とこの分析を行ったスニグダ・センは語っています。

彼女は、西ベンガル州とアンドラ・プラデシュ州にいる173人以上の人身売買のサバイバー(人身売買被害者)に関する法的書類を裁判所や警察署から入手し調査しました。

「調査によって、捜査が不十分であることにより、トラフィッカーは無罪放免となっていることがわかりました。

そして懲罰が課されないことでトラフィッカーが犯罪を続け、人身売買事件が増えるという悪循環が改めて証明されました。」

とさらにスニグダは言っています。

 

野放しにされるトラフィッカーにより繰り返される人身売買

地図出典:d-maps.com


トラフィッカー429人のうち31人は犯罪を繰り返していて、調査の対象となった198件のうちの91件に関わっています。

そしてこれらのケースの被害者は子どもや若者なのです。

「トラフィッカーが有罪判決にならないことは、西ベンガル州において、さまざまな努力やよい取り組みが、政府、警察、そしてNGOによってなされているにも関わらず、人身売買を止めることができていない大きな理由の一つです。

現在の状況では、トラフィッカー、つまり少女や若い女性を西ベンガル州内で捕まえ、他の州(マハラシュトラ州やデリー、テランガナ州やゴア州)に売っている人物が、人身売買の仕組みの責任をほとんど負わずにすんでいます。

彼/彼女らの実入りが増えれば、他の仲間を雇い、脆弱な少女や若者を見つけ、捕まえ、人身売買ビジネスを大きくすることができます。

人身売買案件の捜査が長引き、起訴がほとんどされない理由は、99%もの案件が地元の警察署で行われていることにあります。

地域の警察署は、その捜査をするには時間もリソースも限られているのです。」

と研究を共同で行ったループ・センは言っています。

 

正義を求めるサバイバーたちの声

 

13歳で人身売買の被害にあったサルマ・カタン(仮名)は、こう語っています。

「私の事件のトラフィッカーが無罪になっていることを知っています。

それでも私は、この調査からほとんどの案件が私と同じような状況なのだということを知って驚きました。

そのことにとてもがっかりしましたし、トラフィッカーたちがなんの恐れもなくうろつくことが当たり前になってしまっていると思います。」

現在22歳のカタンは、 Bandhan Mukti というサバイバーリーダーグループに所属していて、その活動の中で、彼女は彼女自身が闘いを続ける勇気をもらっていると言います。

 

別のサバイバーのヌスラット(仮名)は、最近彼女の事件のトラフィッカーが5年の有罪判決を受けたことをこう振り返ります。

「私は、自分の事件のトラフィッカーを裁判やビデオ証言を通じて、有罪にできるとは想像さえしていませんでした。

でも、それは実現でき、その犯罪者は今服役しています。本当なら終身刑であってほしいくらいなのですが。」

このサバイバーもUtthanという別のサバイバーグループの一人です。

 

アンドラ・プラデシュ州のサバイバーリーダーグループであるVimukthiに参加するシバニ(仮名)は、

「私は4年間シェルターで過ごした後、自分の家に戻りました。

でも私は自分の村で差別を受けています。人々は、私や私の家族をまるで反社会的勢力かのように扱います。

一方で私をこんなにも傷つけたトラフィッカーは自由に放浪できているのです。

私はトラフィッカーたちが罰を受けることを望みます」
と語りました。

 

タフティーシュ事業が目指し続けているもの

この調査結果を見て私は、10年間でトラフィッカーが429人中3人しか有罪になっていないという事実は残念だと正直感じました。

一方で、タフティーシュ事業で一貫して掲げている「トラフィッカーが逮捕され、適切な裁判が行われること」の重要性の裏付けとなる調査結果を発表できたことは、今後の活動の布石になっていくだろう、という期待をもっています。

インド現地では既にこの調査が40ものメディアで取り上げられています。

(例:http://news.trust.org//item/20190903111133-4vy8h/ 、https://www.business-standard.com/article/pti-stories/only-3-out-of-429-human-traffickers-in-andhra-wb-convicted-in-past-10-yrs-study-119090300454_1.html

この調査は、タフティーシュ事業に参画するHELP、Goranbose Gram Bikash Kendra(GGBK)、Partners for Anti Trafficking (PAT)との協力で行われました。

この調査が実現できたことから、現地のパートナーシップがより強固になっていることを実感しました。

また、その中でサバイバーの声に耳が傾けられ、当事者であるサバイバーと一緒に歩んでいること、またインド事業に流れる前に進む力を感じました。

タフティーシュ事業(Tafteesh)は、人身売買のサバイバーが正義と権利を取り戻すこと、具体的には、トラフィッカーの有罪判決とリハビリテーションと被害者補償を実現するための支援を行っています。

タフティーシュでは、地方自治体や政策立案者としっかりと連携しながら、州の仕組みや政策を強化するために取り組んでいます。

かものはしの基幹事業であるタフティーシュは、みなさまからのご支援とOak財団との共同出資で行われています。

かものはしプロジェクトをいつもご支援いただきありがとうございます。

引き続き私たちは、タフティーシュ事業や他の事業を通じ、「子どもが売られない世界」を目指していきます。


※調査研究者について
スニグダ・セン:かものはしの一員としてタフティーシュ事業を管理し、サバイバーとともに活動しているシニア・ディベロップメント専門家。
ループ・セン:かものはしのインド事業開始当初から関わっているパートナー。人権活動家で、人身売買問題に20年以上取り組んでいる。

早瀬 真理絵Marie Hayase

ソーシャルコミュニケーション部シニアスタッフ

アフリカで幼少期を過ごす。民間企業および外務省での勤務の後、海外で専業主婦となる。帰国後、社会課題の解決を仕事にするという決意を胸に就活。かものはしの組織文化と個性豊かなメンバーに惹かれ、2018年5月に入職。

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