かものはし総会2023レポート【後編】〜なんとかしたい!を大きな力へ変えていくために〜
いつもかものはしプロジェクトへのあたたかいご支援をいただきありがとうございます。
スタッフの樋山です。
今年の6月17日(土)に開催したかものはし年次総会の様子を、前編と後編に分けてブログで配信しております。
総会レポート前編では、共同創業者の村田のメッセージとインド事業報告をお届けいたしました。(前編のレポートはこちらから)
後編では、日本事業部について報告します!
日本事業部の現在地
日本事業では、2019年からスタートした3年間の事業検討および調査期間を経て、2022年より本格的に活動を開始しました。日本にいる多くの人が「なんとかしたい」と思っている児童虐待問題。悩み、試行錯誤を続けながらたどり着いた事業部の方針とこれまでの活動についてマネジャーの田口からご報告します。
ーー「20万件」その数字の先に一人一人の子どもがいます
最初に児童虐待の概要について、簡単にお伝えさせてください。
日本国内の虐待相談対応件数は年々伸び続けており、2020年を超えた後は毎年20万件を超えています。20万件と聞くと単なる数字のように聞こえてしまうかもしれませんが、その先に一人一人の子どもがいるということは皆さんご想像いただけるかなと思います。
では、児童虐待が子どもにどういった影響を与えるのかということについては、身体的影響が比較的想像しやすいかと思います。一方でそれ以外にも知的発達面での影響、心理的影響などがあり、対人関係を築くのが難しくなってしまうこともあります。
さらに大人になってからも、その影響が日常生活や社会生活に及ぶことが少なくありません。児童虐待は、子どもの人生に大きな影響を与えかねない深刻な問題だと捉えています。
ーー虐待とは「つながりの欠如」によって起きてしまう「構造的問題」
児童虐待の発生原因を調べてみると、何か一つ根本的な原因があるわけではなく、複数の要因が複合的かつ重層的に絡み合って起きるということがわかりました。
虐待の発生の背景には、望まぬ妊娠や親の精神疾患、育てにくさなど保護者や子どもに関する要因や、経済的困窮、ひとり親家庭など環境的要因があり、これらのリスク要因が相互に絡み合っています。一方で、このようなリスク要因があると必ず虐待が起きてしまうのかというと決してそうではありません。
リスク要因を複数持ちながらも虐待に至らない人たちはたくさんいます。では、この違いは何なのかということをチームで考え続けてきました。
そこで、私たちが至った答えは「つながり」でした。というのも、こういった困難を一人の人が抱え込んでしまう、もしくは抱えざるを得なくてその苦しみがどんどん大きくなり、もう抱えきれなくなったその先に至ってしまうことの一つとして、児童虐待があるのではないかと考えました。
虐待は、その人個人だけの責任ではなく、つながりの欠如によって起きてしまう構造的な問題であると考えています。昨年、日本事業では事業方針を次のように定めました。
「社会の中に豊かなつながりを育むことにより、 児童虐待が発生しにくくなり 、虐待を受けた人が回復しやすくなる社会を目指す」
この事業方針を掲げ、現在3つの事業を推進しています。
2020〜2022年の日本事業の取り組み
<虐待の予防のための活動>
①子どもや養育者にやさしい地域づくり
虐待予防でなぜ地域づくりなの?と思う方がいるかもしれませんが、現在の地域社会は核家族や共働きの増加など、地域での関係が希薄化し、いわば無縁社会と言われる状態になっています。
私たちは地域の中で子どもや子育て支援に関わる多様な組織の人たち、団体の人たちが連携協働することによる地域の総力で子どもや養育者を見守り、サポートすることが重要ではないかと考えました。
そこで、2020年からの3年間でNPO法人ETIC.と全国7地域で連携・協働促進のコーディネート役を担う6団体の活動資金支援および伴走支援を実施しました。
かものはしとして、特に注力したのが千葉県松戸市での活動です。3つのNPOが一体となって運営している「まつどでつながるプロジェクト」では、子育てと子どもの孤立をオール松戸で予防するというスローガンのもとに取り組みを行っています。関係機関をつなぐ地域のコーディネーターとしての役割と実際の子ども・子育て支援をするという大きく2つの役割を担っています。
コーディネーターの役割では、以下の写真にあるような地域円卓会議の運営をしています。市役所の方や子ども食堂をやっている方など、地域で子育て・子ども支援に関わっている方々が集まり、膝を付き合わせて日々の活動の共有や、どんなことに悩んでいて、どういった連携ができるかなどについて議論や対話をしています。
地域円卓会議。毎回40名ほどのメンバーが集まります
2022年の成果としては、地域とつながるきっかけづくりのための出産お祝いプレゼントを221家庭に配布、子育て相談ができるLINE相談を155人が利用、困りごとを抱えた家庭への伴走支援を26件実施し、8割ほどが改善傾向という成果が出ています。
<虐待の予防のための活動>
②孤立しがちな妊産婦の支援
ここで、少しショッキングなデータなのですがご紹介します。左側のグラフは2009年から2021年に虐待で亡くなった子どもたちの年齢です。約半数が0歳で亡くなっていて5人に1人は0日、生まれたその日に命を落としてるということが分かります。
右側のデータは子どもの被虐待リスクについての研究結果です。出産から2〜3年後の子どもの被虐待リスクというのは一般の妊婦の場合が2.2%であるのに対して、特定妊婦(妊娠期からさまざまな困難を抱えていて特別支援が必要だと行政から認定される妊婦)の場合は47.2%という結果になっています。
そこで、私たちが取ろうとしているアプローチは、困難を抱えた妊婦や孤立しがちな妊婦さんと妊娠期から繋がり、安心して過ごせる居場所を提供することです。現在、千葉県で居場所の立ち上げを検討しています。そして、その居場所を通じて地域の様々な支援者と協力して妊婦さんが安心して子どもを産み育て、子どもと一緒に長く暮らすことができるような仕組みを作っていきます。
2022年度の具体的な活動としては、千葉県松戸市で妊婦向けの座談会を実施しました。妊婦さん同士でつながる機会を提供し、日頃感じる不安や疑問について皆で意見交換をしました。実際にある市内のサービスについても紹介する機会がありました。
居場所の立ち上げに向けた調査では、全国および松戸市周辺での孤立しがちな妊婦への支援状況について、官民双方の支援者にインタビューをして学びを深めました。今年度はこの居場所の立ち上げに向けて 準備をさらに進めていきます。
座談会では妊娠や出産、子育てに関する不安や期待、疑問が共有されました。
<虐待からの回復のための活動>
③児童養護施設等を出た若者の巣立ちの応援
最後に、児童養護施設等を出た若者の巣立ちの応援事業についてお伝えいたします。
虐待などによって児童養護施設で過ごした子どもたちは、18歳に達し高校を卒業すると同時に児童養護施設を出ることが多いです。このような若者の多くが実家などの後ろ盾がない状態で社会に出ていき、さまざまな困難に直面するなかで将来の選択肢が制限されることがあります。
例えば、大学進学率は一般家庭の半分以下であり、離職率が高いまたは不安定就労の傾向も高く、生活保護受給率は同世代に比べて18倍というデータも存在します。
虐待という過酷な経験をして、子ども時代を生き抜いたその後も、若者として社会に出てから依然として過酷な状況に直面せざるを得ない人たちがいる。この状態を、なんとかしたいという強い思いでやっているのがこの事業です。
すでに児童養護施設や民間団体の方々が退所後の若者支援を行っていますが、それらをさらに充実させることを目指し、私たちは現場での支援をしています。また現場での支援が進展し、政策にも変化をもたらすようにと政策提言の活動も併せて行っています。
千葉県松戸市にある児童養護施設。
2022年度は千葉県の児童養護施設での現場支援に注力してきました。退所後の支援を担当する施設職員に対して、専門家を派遣し、卒園生の支援相談を行ったり、自立支援のガイドライン策定をサポートしました。
また、 政策提言においては業界団体の皆さまと連携し、省庁に対する働きかけを行ってきました。今年度も引き続き現場支援と政策提言、この2本の柱で活動を進めていきます。
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総会レポートの後編、いかがでしたか?2019年からスタートした日本事業は、これまでの海外での活動から一転して国内での活動を始める大きな挑戦でした。もちろん、カンボジアとインドの問題を「自分ごと」として「なんとかしたい」と思ってやってきたことと何も変わりません。しかし、自国の問題と対峙するときに、距離感が近づき足がすくむようなプレッシャーが増す感覚があるなと感じます。
日本事業部が苦悩しながら辿り着いた、事業方針の中心にある「つながり」という言葉。
苦しいときに「助けて」と言えるつながりをどれだけ持っているか。自らSOSを出せない人に対して、どうしたら「つながり」を作れるか。また、日常生活で他者とどれだけつながろうとしているか、など、多くの問いかけをもらった気がします。
総会当日に「寄付をする以外に日本で何かできることはありませんか?」というご質問をいただきましたが、日本でできることをしたい、力になりたい、と思っている方が多くいることを実感しました。皆さまにお願いしたいアクションは日々模索中なのですが、まずは自分の身近なところで、少し気がかりな人、最近連絡を取っていない人に声をかけるなど「積極的に人とつながる」ことが、誰かの支えや喜びにつながるかもしれません。
来年も総会で皆さまに良い報告ができるよう、2023年度も一層の努力を惜しまず頑張ってまいります!
樋山 真希子Makiko Hiyama
ソーシャルコミュニケーション部シニアスタッフ
学生時代に見た映画「闇の子供たち」に大きなショックを受け、一度「児童買春」という社会問題からから目を背けたものの、社会人を経てもう一度この問題とちゃんと向き合いたいと思い、2016年にかものはしプロジェクトに参画。子どもとカレーが大好き。