子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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日本総会

かものはし総会2023レポート【前編】〜なんとかしたい!を大きな力へ変えていくために〜

いつもかものはしプロジェクトへのあたたかいご支援をいただきありがとうございます。

スタッフの樋山です。

 

6月17日(土)に、年に一度のかものはし年次総会を開催いたしました!

今年は対面とオンラインの同時開催。初めての試みで事務局としてもチャレンジでしたが、3年ぶりのリアルな出会いを楽しむ様子や、オンラインだから気軽に参加できてよかったなど、嬉しい声をたくさんいただきました。

 

 

今年は約100名の方々にご参加いただいた年次総会。スタッフをはじめ、支えてくださる皆さまの熱い想いに触れた当日の様子を前編・後編に分けてお伝えいたします!

 

前編では共同創業者の村田のメッセージ、インド事業報告をお届けします。

 

 

<2023総会の構成>

  1. 活動報告
  2. パネルディスカッション
  3. 通常総会

 

総会に先立ち、村田からのメッセージ

 

まずは共同創業者の村田より、かものはしプロジェクトの新しいキャッチフレーズと活動の原点の想いをお話させていただきました。

 

<新しいキャッチフレーズ>

 

子どもの虐待や貧困、

「なんとかしたい」

を大きな力に変えていく」

 

〜子ども、尊厳、市民の力〜

 

ここに集まっている皆さまは、一緒に活動をしてくださったり、サポーター会員だったりと、色んな形で「子どもが売られる問題をなんとかしたい」とか、「児童虐待をなんとかしたい」と思って集まってくださっているのだと思います。私自身もその一人です。私は21年前に子どもたちが売られているという問題を知り、活動をしてきました。

 

 

 

団体を作るきっかけとなったのは一人の女の子、ミーチャという子の話です。私が19歳のときに大学の授業で読んだ新聞記事でミーチャのことを知りました。ミーチャは家族を助けるためにミャンマーからタイに出稼ぎに出た先で、騙されて売春宿に売られました。そして暴力を加えられながら働かされた結果、HIVに感染してエイズを発症し、20歳という若さでこの世を去りました。

 

家族を助けたいという一心だった。弟や妹を学校に行かせたかった。でも、それは叶いませんでした。彼女が売られた金額は3千バーツ。当時の日本円で1万円ぐらいです。

「学校に行って勉強をしてみたかった」彼女が残した言葉です。

 

そして、忘れられないのが、ミーチャが日本の新聞記者に伝えた言葉です。

「私の話を多くの人に伝えて欲しい。私の経験を思い出すと辛いけれど、でも大丈夫。きっとこの話を聞いた日本の誰かが、こんなことはなくさなきゃいけないと行動する人がきっと出てくるから。私の話を多くの人に伝えてください」

その記事を大学の授業で読んだ私はいてもたってもいられず、現場に行きました。当時、この問題が一番深刻だったのがカンボジアで、ミーチャよりも低年齢の子たちが売られていました。

 

活動がはじまったころ、カンボジアにて

 

大学を卒業して、カンボジアでゼロから事業を作って、たくさんの失敗をして、最終的には農村に仕事を作るという事業を行い、警察支援も始まり、そういう中で2010年代にはカンボジアでの被害がなくなってきました。

 

2012年からはインドに軸足を置き、人身売買を生き抜いたサバイバーの支援、人身売買が起こらない社会の仕組みづくりを行っています。私たちは敬意を込めて、人身売買の被害者をサバイバーと呼んでいます。そのサバイバーの話を聞く中で、いかにこの問題が人の尊厳を傷つけているのか、尊厳を奪っているのか、ということを知りました。そして、その話を日本の若者やたくさんの人に伝えていくなかで、日本の若者や子どもたちも実は傷つき、被害にあっているということもわかりました。

 

2019年から始まった日本での活動もどんどん進んでいますが、問題を知れば知るほど、道のりは長いなと感じています。ですが、「なんとかしたい」と思っている人たちが集まれば、きっと社会は変わっていく。変えていけると、信じています。

 

インド事業、今現場で起きていること

ここからは、各事業部からの事業報告に入ります。トップバッターはインド事業。ディレクター清水からのご報告です。インド事業が始まって10年という大きな節目を迎えた2022年。今、現場ではどんなことが起こっているのでしょうか?

 

 

インド事業が達成したいゴールは、「サバイバーリーダーたちの声が社会に届き、優しくて力強い権利ベースの活動が主流となること。そして州をまたぐ人身売買犯罪の捜査・裁判の仕組みができ、人権に配慮した捜査・裁判が行われることにより、子どもの性的人身売買がインドにて抑止されること」です。

 

これを実現するインド事業の3つの柱として、①人身売買を取り締まる法律・政策・システム強化、②サバイバーのリーダーシップ育成、③リーダーシップと組織開発、この3つを事業の柱として据えています。1つ目の法律・政策・システム強化をしていく事業としてタフティーシュ事業を2013年から開始、 2つ目のサバイバー支援はサバイバーの人たちのリーダーシップを育成していく事業としてリーダーシップネクストという事業を2018年から行っています。

 

2022年度の成果は以下の通りです。

 

 

サバイバーのリーダーシップが成長してくると、面白いことに皆が違う活動をしていても、見えてくるパターンが一緒です。グループ活動のはじまりは、皆が「やるぞ!」と盛り上がるのですが、実際やり始めると、ケンカが起き、不信感が募り、ということがどんどん起きてきます。その壁を乗り越えた先に彼女たちの見たい風景が広がっていることが分かっているので、私たちは彼女たちが自分たちでその壁を乗り越えられるようにサポートをしています。

 

また、サバイバーリーダーたちがどんどん成長していくと、NGOの人たちは「自分たちっている必要あるんだっけ?」とアイデンティティロス(自己喪失)が起きてきます。その中で、再度、自分たちが一体何の役割を持って、他の人たちのリーダーシップに寄与していくのか、ということを再定義せざるを得ない状況がどこの団体でも起きていて、それはすごく美しい光景だなと、思っています。

 

 

 

ーー人身売買の被害に遭う、ということはその人の人生観を大きく壊します。

また、人に売られるという経験を持つということは、本当に自分はこの世界に

生きていて良いのだろうか、ということを絶えず心の中で感じるような状況を作ります

 

サバイバーの人たちがレスキューされて戻って来たときに、何とかして彼女たちを助けたいと思って活動しているNGOの人たちが、下の図のTafteesh(タフティーシュ)と書いてある円の上にいる人たちです。NGOの人たちは24時間365日ほぼ休暇を取ることができない状態でサバイバーの人たちを支援しています。内側の円のタフティーシュのロゴの周りにいるのがサバイバーグループです。

 

 

 

タフティーシュは裁判を行っていくので弁護士グループも入っています。弁護士は普段はお金儲けの裁判支援が多いのですが、一人一人のサバイバーの話を聞くことにより、心が動かされ、なんとかしたいと思う。どう考えても今の法律やシステムではどうにもならないけれども、トライしてみよう!と言って、ここまで進めてきました。その結果として、被害者補償の判決が恒常的に、安定的に出る、ということがありました。そしてその被害者補償金額も、Tafteeshが始まる前に比べて4〜26倍の金額がサバイバーに振り込まれるようになりました。全て、インドの皆が「なんとかしたい」と思ってやってきたことの結果です。

 

ーー当事者の声を真ん中に置くと、

NGOの人もドナー(寄付者)も自分たちの在り方を考えさせられる。

この5年間ずっと、突きつけられてきています

 

photo by Siddhartha Hajra

 

「当事者の声を真ん中に置いて事業をする」これを、インド事業では最初から決めてやっています。簡単なようで、実は結構難しいんです。一体当事者の声とは何なのか。私が当事者だとしたら、私の声というのは、私の中にもたくさんあるわけですよね。そのうちのどの声を聞くのかということを常に考えさせられます。

 

最近の例を一つお話します。インド政府が外国からのお金に対する締め付けを強化しているなかで、どう持続可能な形で事業を継続していくのかということを話し合いました。

 

その時に、政府にアドボカシーする時には少し気をつけた方が良いよね、という話をしたのですが、サバイバーの人にすっごく怒られました。なんてことを言ってくれるのかと。自分たちはここまでリーダーシップを伸ばしてきて、自分たちにとって法律を変えていくことを中核に事業を行ってきたのに、政府の方針だからと言ってかものはしは方針を変えるのかと。

 

私は、インド事業の責任者として、かものはしから現場にお金が来なくなったら困るよね・・ということは考えるのですが、「かものはしがインド政府や他の財団関係者にアドボカシーをするべきだ!」と、私たちにちゃんと主張できるサバイバーの人たちはやっぱり非常に強いなと思います。「自分なんかの意見を聞いてもらうのは申し訳ない」とか、「かものはしはお金を持っているから物申せない」ではなくて、かものはしに対してちゃんと物申すことで自分たちがやりたいことができる環境を作れるようになってきたというのは、彼女たちの大きなリーダーシップの成長の証だなと見ています。

 

photo by Siddhartha Hajra

 

当事者の声を真ん中に置くときに、NGOの人たちもドナー(寄付者)である私たちも、自分たちの在り方というものを考えさせられます。

 

2025年度末までの残りの時間の中で、どういう風にインド事業を変えていくのかということを今まさに、現場パートナーNGO、サバイバーリーダーたち、そしてインド事業を支えているかものはしインドチーム内で話し合っている段階ですが、この先もまた皆で乗り越えて行きたいと思っています。

 

 

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総会レポートの前編はいかがでしたか?私はオンライン担当だったので、実は会場には行けず、画面越しに話を聞いていました。村田の話は、「この場にいる人は20回以上この話を聞いているかもしれない(汗)」と本人は言っていたのですが、何回聞いても、ミーチャの言葉に胸がぎゅっと締め付けられ、背筋が正されます。「なんとかしたい」と思って、最初に行動した村田がいて、そこに集まった仲間がいたからこそ、かものはしプロジェクトが出来ました。再度、心が燃やされるような、そんな気持ちになりました。

そして、インド事業。サバイバーの大きな変化を間近で見ているNGOのアイデンティティロスには、私自身もハッとするというか、「今、何のためにこの仕事をしてるの?」という一つの問いにも聞こえました。誰かのためと言いつつ、本当は自分のためだったり、気づいたら自分を見失っていたり、ということがこの業界では起きやすいのかもしれません。そして、「ドナーだから物申せない」ではなくて、「同じゴールに向かうパートナーとして対等に物申す」というサバイバーリーダーの変化、すごいなと思いました。ちなみに、それまでは清水のことを「マダム」と呼んでいたのに、最近はやっと「Tomomi」と呼んでくれるようになったそうです!

 

後編のレポートもお楽しみに!

樋山 真希子Makiko Hiyama

ソーシャルコミュニケーション部シニアスタッフ

学生時代に見た映画「闇の子供たち」に大きなショックを受け、一度「児童買春」という社会問題からから目を背けたものの、社会人を経てもう一度この問題とちゃんと向き合いたいと思い、2016年にかものはしプロジェクトに参画。子どもとカレーが大好き。

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