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インド出張報告:サバイバーリーダーシップ〜後編〜

 


2022年12月に西ベンガル州南24区で活動するBandhan MuktiリーダーたちとGGBK(かものはしパートナーNGO)を訪問した時の写真。

 

インド事業部ディレクターの清水です。

前回は2年半ぶりのインド出張の様子を途中までお届けさせていただきました!(ブログ前編はこちらから

12月の出張では事業地である西ベンガル州南24区のサバイバーグループ、BandhanMuktiのリーダーたち、そしてアンドラプラデーシュ州のサバイバーグループ、Vimuktiのリーダーたちを現地に訪問しました。

ブログ後編ではVimuktiとのワークショップの続きの様子をお伝えいたします。

 

集団的意思決定プロセスとリーダーシップ

Vimktiとのグループワークの中でも秀逸だったのは、彼女たちの意思決定の仕方です。

残りの時間が3時間を切ったところで、彼女たちは「ジェンダー」について話すのか、「リーダーシップ」について話すのかの岐路に立たされました。2022年11月の選挙で代表に選ばれたリーダーに、グループとしての意思決定をするよう伝え、私はモニタリング側にまわりました。

グループは真っ二つに割れ、新しい代表につく人たちと、昔からVimukti内で声の大きいリーダーにつく人たちが意見を闘わせ始めました。

そのうちに、「男なんて何をするか私たちは嫌ってほど知ってるんだからいまさらジェンダーについて話したって仕方ないじゃない!」と怒り始める人、「この事業はリーダーシップ事業なんだから、私たちはリーダーシップについて熟知しているはずじゃない。なんで今更リーダーシップについて話さなきゃいけないのよ」とふてくされる人たちが出てきました。

ここまでで既に40分が経過。このまま続けても話し合いは一向に平行線で時間切れを迎えると思い、「残り時間は2時間ちょっとだよ」と伝えました。

すると、皆は焦って、更にスピードを上げて、相も変わらず平行線の議論を続けました。

ここまできて、あ、彼女たちには、多数決でグループの意思決定をするという選択肢がないのだな、ということに気付きました。

 

 

1時間が経過しても状況は変わらなかったので、ファシリテーションを引き取り、集団的意思決定には、民主的プロセス(皆が同じ意見になるまで議論を重ね尽くす)のほかにも、多数決というやり方があるということを説明しました。

すると、メンバーの何人かが「多数決はダメだ、なぜなら選ばれなかった方の人たちがその後のセッションに(へそを曲げて)参加しないということを過去見てきたから」という。

なるほど、面白い。だからお互い、相手が意見を変えてくれることを願って、意見を変えてくれるように相手に影響力を行使しているのね、でも、この1時間誰も意見変えなかったわね、と伝えてみる。すると、全員黙り込む。

多数決がダメで、民主的プロセスも結論が出ないのならば、他にどんな意思決定の方法があるだろうか、と問い、考えうる交渉オプションを4つ、私から提案してみました。その後グループ内議論はスムーズに行き、集団的合意がされました。

その直後、この1時間強かかったプロセスから、皆、何を学び、感じたのかを問うと、「交渉する」というオプションがあるなんて考えたこともなかった、という発言が多発しました。

「客とは値段やサービス内容など交渉できるのに、なぜこの意思決定ではそれを行使しなかった?」と問うてみると、皆、神妙な顔をして考えていたのが印象的でした。

 


Vimuktiリーダーたちと、HELPスタッフ及びかものはしインドチームが2022年6月に再会した際の写真。

 

関わる者のレンズを変えると立ち現れた、新しい像

朝10時から夕方5時半過ぎまで、この間、NGO関係者のサポート、介入は一切なし(NGO関係者には同じプロセスを一緒に見ながら、別の課題を与えて翌日NGOとだけの話し合いを行いました)。

Vimuktiリーダーたちは自分たちの意思を表明し、感情を吐露し、お互いを支え、闘い、考えを共有するなかで集団的意思決定をしていきました。

これまで、Vimuktiメンバーの集中力は30分もたないと、どこの場でも言われてきました。彼女たちには難しい対話を行うリーダーシップは育ってない、NGOの言いなりになっていると言われてきました。

夕方5時半を過ぎてもなお帰りたいという人がいない、携帯電話をいじってる人がいないというのは、NGOにとっても目が点となる事象だったようで、翌日のNGO対話はそのことが多くの時間を占めました。

「リーダーシップ」は見る人のレンズによっては立ち現れてこないけれど、それは必ずしも「ない」ということではない、ということを証明したようなセッションになりました。

ワークショップの最後に、Vimuktiの中のおとなしいリーダーが「これまで私はなんでVimuktiに参加してるのだろうって思ってたけれど、今日、初めて、Vimuktiの一員であることの意味が明確になった」と頬を赤らめて伝えているのを聞いて、私は心の底がじんと熱くなりました。

彼女はこれまでVimuktiに参加することの意味は、Aadharカード(※)などの基礎的サービスを享受することだけだと思っていたけれど、今日のワークショップを通じて、これは彼女自身が平等に取り扱われ、平等に愛され、そのことによって自分の内側の一部が癒されてリーダーとして立ち上がることが、彼女にとってVimuktiの一員であることの意味だ、と理解したそうです(後日、月次報告書に彼女はそう書いてくださいました)。

Aadharカード:インドの身分証明カード

 

かものはしが支援するリーダーシップ事業の中で、大切にしている要素がいくつかあります。

今回のVimuktiとのワークショップでは、①力関係(パワーダイナミックス)、②傾聴、③回復力(レジリエンス)の活性化に意識をたてたプロセス設計となりました。

このように、かものはしはリーダーシップ事業の支援、モニタリングを行い、文脈、背景、個性の異なる多様なサバイバーリーダーたちがどのようにリーダーシップを育成し、社会に関わり、社会を変えていく力を発揮していくのか、記録をとりだめています。

それはいつの日か、他の場所で、何か別の暴力にあい、生きる灯が小さくなっている人たちの力になると信じて。

 

2023年が皆さまにとって、リーダーたちにとって、そしてリーダーたちを心から支援している方々にとって良い一年になりますように。

 

清水 友美Tomomi Shimizu

インド事業部ディレクター

2011年から2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。森と温泉が好き。

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