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インド出張報告:サバイバーリーダーシップ〜前編〜

インド事業部ディレクターの清水です。

昨年も皆さまから多大なご支援を賜り、ありがとうございました。

インド事業関係者及びサバイバーリーダーたちとともに、心より御礼申し上げます。

 

2022年は私にとって、インド出張を再開した年となりました。

2020年2月からコロナの影響で、現場に行けない日々が2年半続きました。かものはしで働き始めてから、必ず四半期に一度は現場に行っていたので、これは初めての体験でした。

現場にはインドチームの皆がおり、彼らとは毎日Zoomで顔を見てやり取りをしていたので、インドに行かなくても、プロジェクトはちゃんと回っている自信はありました。それでも、皆が不安や恐怖の真っただ中にいる時に側にいられないもどかしさを感じ、本当にどこでもドアがあったら、と何度も思った2年半でした。

 


2022年7月のインド出張時の一枚。ILFATを支援する団体とかものはしインドチームと。

 

2022年7月はコロナ感染へのリスク低減のため、カルカッタのみを訪問地とした1週間の弾丸出張でしたが、先月12月に再度インドを訪問した際は、事業地へも足を延ばしました。

西ベンガル州南24区のサバイバーグループ、BandhanMuktiのリーダーたち、そしてアンドラプラデーシュ州のサバイバーグループ、Vimuktiのリーダーたちを現地に訪問し、それぞれのグループと即興のワークショップを行いました。今回はその様子を前編と後編に分けてお伝えします。

 


久しぶりのインドの街の様子。アンドラプラデーシュ州のVijaywada。

 

私自分のリーダーシップを深める旅

この2年半、私はスペインでEvocative Leadership Mastery()の研修に参加していました。

私がイヴォカティブ・リーダーシップ(evocative leadership)に興味を持った背景には、かものはしが2018年から支援しているサバイバーリーダーシップ事業(人身売買の被害者が社会を変えるリーダーへと成長することをサポートする事業)が大きく関わっています。

年次報告書にも書きましたが(特集レポート#23)、この事業支援を始めてから、改めて自分がいかに特定のリーダーシップの形しか知らないのかというのを思い知らされました。

そして、その自分のリーダーシップを見るレンズが、いかに事業と彼女・彼らのリーダーシップの在り方を狭めうるかということを突きつけられました。

イヴォカティブリーダー(Evocative leader)というのは、自分の内側にある光をちゃんと見つめ、自分の在り方、アイデンティティ(自分はいったい何者なのか)を思い出すことで、関わる他者やシステムに灯をともす、そんなリーダーシップの在り方です。

※Evocative Leadership Mastery:ネイティブアメリカンやマヤ文明、ケルト文化等の教え、叡智に基づいて設計された、アメリカのEhama Instituteが行っているリーダーシップ研修。Evocativeとは、自分の中に眠っている記憶を思い起こし、心を揺さぶる、という意味。

 


Vimuktiのメンバーたち

 

Vimuktiのリーダーたちと会う日の朝、私はイヴォカティブリーダー(Evocative Leader)としての自分を整える時間をいつもより多くとりました。

2018年に彼女たちに会った時からすでに4年が経っています。多くのメンバーが現在も性産業に従事している、サバイバーグループの中でもユニークなグループです。

この4年の間に、力強いリーダーの2人がグループを脱退しました。彼女たちを支援するNGO、HELP()との関係性の中でもなかなか思ったようにリーダーシップが育ってきません。

コロナ禍で性産業は下火になり、売春宿が閉鎖されたことから、多くのセックスワーカーたちが仕事を失い、多重債務に陥りました。

テルグー語()を話す彼女たちの中に、ヒンディ語や英語が話せるリーダーがいないために、全国サバイバー連盟(ILFAT)の中で排除されていると感じ、被害者性を強めている。内縁の夫や客から恒常的に暴力にあい、レイプ被害も多い。精神的に追い詰められているメンバーも少なくない。

それが、私がこの4年のモニタリングを通じて理解しているVimuktiの「今」でした。

事前に、「ジェンダーについてワークショップするよ」ということをインドチームを通じて伝えてはいましたが、果たしてそれが今の彼女たちに必要なテーマなのか、いまいち確信が持てずに当日の朝を迎えました。しかし、私のすべてをもって全力で向き合うと決めて、彼女たちに会いに行きました。

彼女たちは大きな笑顔とハグで私を迎え入れてくれました。高揚する場のテンションに惑わされないよう、私は、スペインから持って帰ってきた勾玉(まがたま)のようなものをオブジェにして、ワークショップを始めました。

※HELP:アンドラプラデーシュ州にある、かものはしパートナーNGO団体。
※テルグー語:インドの南東部のアンドラ・プラデーシュ州およびてテランガーナ州の公用語

 

 

一人一人に、自分の名前、今どんな気持ちか、今日なぜ来たのか、という3つのお題を出し、ボールを持った人だけが話をできる、そのほかの人たちは、話している人と声を一生懸命全身で聴くということをルールに定めました。すると、ボールを持っている人の顔が神妙な顔に代わり、順々に場の空気がしゅっと引き締まっていくのを感じました。

コロナ禍の2年半、緊急支援データから、個々人がどれだけの借金苦を生き抜いてきたのか見てきました。

月次モニタリングデータからも一人一人が置かれている生活環境、さらされている暴力などを見てきました。それらと、彼女たちの顔が一致し始めて、気づいたら涙が流れていました。

そのことに気づいたVimuktiのリーダーが、なぜ泣いているのか、皆あなたに会えてこんなに嬉しいと言っているのに、と問いました。

セックスワーカーである前に、彼女たちはひとりの女性であり、ひとりの人間であり、ひとりの娘であり、ひとりの母です。立場は違えど、私もまた同じです。

彼女たちの生き抜いてきた茨の道を想った時に、よくここまで歩いてきたなぁと自然と涙が出てきたのだということを伝えると、また場の空気が引き締まり、何人かの顔に涙が浮かんでいるのが見えました。

 

<<前編はここまで。後編もお楽しみに!>>

 

清水 友美Tomomi Shimizu

インド事業部ディレクター

2011年から2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。森と温泉が好き。

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