【インド事業】地域住民が主導する、人身売買を「予防」する基盤づくり〜TRC事業の取り組み
date2025.5.15
インド事業チームメンバーとして活動している、スタッフの稲川です。今回は、2023年からスタートした人身売買を「予防」するための取り組みについて皆さんにご紹介します!

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地域住民が主導する、人身売買を「予防」する基盤づくり
インド事業では、これまで人身売買の加害者が逮捕・有罪判決を受けて適切に処罰されること、そして被害者が補償を受け、社会的に認められることを大切にしてきました。加害者にとっての不利益を大きくすることが最大の抑止力だと考えて、取り組みを進めてきました。
一方で、そもそも人身売買が起きないようにする「予防」の観点も欠かせません。
2020年から2022年に実施した調査では、人身売買の被害にあいやすい背景には、さまざまな要因があることがみえてきました。
調査を踏まえ、2023年10月から新たに始まったのがTafteesh Resilient Communities(TRC)事業です。
この取り組みでは、地域に暮らす人々が、自らの手で人身売買の被害を防ぐための「予防」の基盤づくりを進めます。
TRCは、現地のNGOだけでなく、3つのサバイバーグループが実行主体として、NGOと肩を並べてともに活動しているプロジェクトです。

人身売買の根本的なリスク要因へのアプローチを目指して
TRC事業では、特に人身売買の被害にあいやすいイスラム教徒コミュニティや、ジェンダー多様性のあるこども、若者たちへのアプローチにフォーカスしています。予防においては、親子間の関係性の強化が人身売買の予防に関連しているという仮説のもと、親子間のワークショップや地域行政との連携強化、家族や地域におけるジェンダー多様性の理解促進など、多面的な取り組みを通じて、「地域のレジリエンス(回復力)」を高めることを目指しています。
それらの目的をもち、現在はインド西ベンガル州の周縁化されたコミュニティを中心に、地域住民自身が主導する予防基盤を築きながら、人身売買の根本的なリスク要因にアプローチする活動を展開しています。

2024年度の活動と成果
1.親子関係の強化に取り組み、信頼とコミュニケーションを育む
13の村で、親子の信頼関係やコミュニケーション向上を目指したワークショップや研修を開催しました。また、臨床心理士の指導のもと、親とこどもが互いを理解し支え合うスキルを育む取り組みが進められました。ある村では、ワークショップをきっかけに家庭内の対話が増え、こどもたちが学校に安心して通えるようになった例も報告されています。
2.地域コミュニティや行政との連携強化
23の村で人身売買の被害の脆弱性に関する評価を実施し、村の会議や近隣学校の委員会との連携を強化しています。
特に、いくつかのパートナー団体は、地方政府への働きかけを通じて、こどもの保護に関する議題を提起するための取り組みをしています。 それらの中には、こどもの就学状況改善を学校の委員会と連携して進める試みも生まれています。
3.ジェンダー多様性の尊重:新たな一歩
人身売買の被害にあいやすいとされているジェンダー多様性のこどもたちへのアプローチも行っています。昨年は、地域におけるジェンダーが多様なこども・若者たちの把握を行い、信頼関係の構築からスタートしました。また、学校との連携を進めており、ジェンダー理解を深める取り組みも行われました。高い専門性が求められたり、信頼関係は一朝一夕では構築されないなど、まだ課題はありますが、地域で支え合う土壌づくりに向けて、新しい一歩を踏み出しました。

自分たちの足で立ち、地域のひとりひとりが主体となる事業へ
私が2023年11月にインド・西ベンガル州を訪れた際には、沿岸地域における洪水や塩害による農作物の不作から地域住民の一部が移住を余儀なくされ、結果として人身売買の被害にあうリスクが高まるという実態も語られました。

TRC事業は、そうした気候変動や農業の衰退など、人身売買につながりうるあらゆる社会課題に目を向けることを特徴としています。
目まぐるしく変容する政情、文化、人々の生活の姿をリアルに映し出しており、今日の社会に適応したアプローチを探求する「新しい」取り組みであることが大きな意義の一つです。
また、イスラム教徒コミュニティやジェンダー多様性など、インド社会におけるさまざまな側面のマイノリティの人々とかものはしのような外国のNGOが活動をともにすることは、政治的なバランス感も求められ、決して簡単なことではありません。しかし、人身売買の予防により効果的であると仮説を立て、本質的な領域にアプローチすることも、また一つ大きな意義であると感じています。そうした探求を繰り返す中で、私たちもパートナー団体とともに学んでいきます。
TRC事業は2026年9月までの3年間にわたって実施されます。サバイバーたちのリーダーシップや、地域に芽吹き始めた変化を見守りながら、日々取り組んでまいります。