子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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日本

日本の子ども・家族を取り巻く、社会の”当たり前”を変える

かものはしの日本事業では、さまざまな人が関わり合いながら、事業を進めています。今回は日本事業のマネジャーであり、CI(コレクティブ・インパクト)事業(※1)で担当を務めている五井渕さんに日本事業に携わった想いと、CI事業に関わって見えてきたことについて、綴っていただきました。五井渕さんの目線から、日本事業で起こっていること、感じていることをサポーターの皆さまにお伝えすることができたらと思っております。今後も日本事業に関わる素敵なスタッフたちのエピソードをお届けできたらと思っておりますので、ぜひご一読ください。


日本事業マネジャー・五井渕

※1 コレクティブインパクト:行政や民間企業、各種団体、市民などがそれぞれの枠を超えて協力して社会課題を解決するアプローチのこと。

 

◆わたしと日本事業

わたしは、いま5歳と2歳になる子どもの親であり、かものはしを通して、千葉県松戸市で活動するまつどでつながるプロジェクトに、事業パートナーとして関わっている。

わたしがかものはしに参画したのは2019年からで、自分自身が子育ての当事者(親)になり、日本社会の子どもや家族を取り巻く不条理への関心が高まったタイミングで、かものはしが日本での事業をスタートさせる動きに出会ったことがきっかけだった。

日本でのCI(コレクティブ・インパクト)事業で関わっている「まつどでつながるプロジェクト」は、MamacamさんままつどNPO協議会など複数の団体が連携して、「子どもや子育ての孤立予防を通して『誰もが共に寄り添い、自分らしく生きられる社会』の実現を目指している。わたしの仕事は、まつどでつながるプロジェクトのリーダーたちをサポートすることで、一緒に戦略や作戦の立案を行っている。思えば、松戸との関係性はかものはしでの活動の以前からで5年以上と長く、おそらく住んだことのある街以外では一番多く足を運んでいる。


まつどでつながるプロジェクトのロゴ

 

◆子育ての「当事者」としての自分

2020年の春、新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、当時子どもたちが通っていた東京都内の保育園が一時閉園になった。毎日、自宅と近所の公園を往復して子どもたちと過ごすうちに、わたし自身が「孤独な子育て」の当事者なんだと初めて気づいた。お互いの親は遠方で、声をかけあい頼りあう近所の友だちはおらず、保育園やベビーシッターなど公的・民間のサービスが止まれば、子どもに関われるのは夫婦だけ。急に不安で、息苦しく、行き場所がない思いがした。

こんなたくさんの人が暮らす街なのに、助けてと言える相手は身近にひとりもいない。

「まつどでつながるプロジェクト」は、子育て当事者へのアンケートやインタビューを実施することからスタートした。孤独な子育て、子どもの発達障害、夫婦間のジェンダーギャップ等、悩みを抱えながらも、行政等の具体的な支援にはつながりにくい「グレーゾーン」と言われる当事者の人たち。

そこで聞こえてきた声は、

「誰もやってくれないから自分(母親)ががんばらなければいけない」

「家族の外に助けを求めることはできない・恥ずかしいことだ」といったものだった。

「子育ては親の自己責任」という社会の「当たり前」を背負いこんでいる姿が見えた気がした。

この「当たり前」は、家族の状況が困難(たとえば病気、転職・失業、離婚、そしてコロナ渦)になると、一気に子や親を追い詰めて逃げ場をなくしてしまう。

働くことでも育てることでも自立を求められ、がんばっているうちに孤立して、何かにつまずいても頼る先を見つけられず、不条理な状況で置きざりにされる。


左から五井渕(父)、長女、母、次女、友だち

自分が大切にされず傷つくと、何かのバランスをとるかのように、自分自身や身近な誰かを大切にできず傷つけてしまう。その先にある結果のひとつがたとえば「虐待」だとすれば、それは誰のせいなのだろうか?

これを書いているわたし自身はどうだろう?この先、子どもたちを虐待せずに暮らしていけるだろうか?「そんなことするわけない」「わたしは大丈夫」そんなふうには言えない。

子どもとともに育つことはとても幸せ。けれど同時に、とても不安だ。

 

◆「松戸」という一つのタイルからひっくり返す

社会の、地域の、そして自分の「当たり前」を変えていきたい。

「子育ては親の自己責任」から、「子どもは社会みんなで育てる」へ。

いまはまだ空虚なスローガンのようにも聞こえることを、実態にしていきたい。

親だけではなく、制度としての行政サービスだけでもなく、意思ある市民組織(NPO、自治会、PTAなど)が、街で働く人たちが、地域のおじちゃんおばちゃんが、さまざまな濃淡と接点で子どもや家族に関わる。

支援者同士はもし困難があれば協力して強力に取り組むことができる。関係する行政の組織や民間のNPOなどが、互いに認め合いつながることで、子どもと家族が支援の網の目からこぼれ落ちることを防ぎ、安心して生活できるようになる。

当事者がその真ん中にいる。

みんなが、少しずつ寄りかかり合うことで自ら立つことができる。

そういう豊かな「生態系」を、まずはひとつの地域で丁寧につくる。

かものはしが目指しているのは、そうした生態系を育むことによって、児童虐待の予防がなされ、また虐待が起きた時に適切にケアをすることができ、何度でもやり直せて、生まれてきてよかったなと思える、あったかい社会が実現することだ。

日本社会を自治体で数えれば、1,718市町村。すべてのタイルを一気にひっくり返すことは難しくても、そのうちのひとつが松戸市になればと願っている。


駄菓子屋カフェくるくるに集まる親子

 

◆関わるとあったかくなる輪を広げる

まつどでつながるプロジェクトの取り組みから、少しずつ希望の光が見えつつある。

赤ちゃんが生まれた家庭に無料で出産祝いを贈る「ウェルカムベビープロジェクト」や、ほっと一息つける・楽しく遊べる居場所をキッチンカーを使ってつくる「駄菓子屋カフェくるくる」など、さまざまな活動であらゆる子ども・家族とつながる仕組みが展開されている。

日常の日々がしんどくなってしまった時に、そっと寄りそって手をとれる家族以外の「誰か」の存在は、複数あった方が良い。プロジェクトを通して、子どもや家族につながる線(人)の数が増えていることが実感できている。つらい時、困った時に、ひとりじゃないと思えることが、どれだけ人を励ましてくれるだろう。

支援組織同士が関係性をつくり連携を進めるために始めた「地域円卓会議」をきっかけに、松戸市役所と地域のNPOによる官民連携のプロジェクトがいくつも立ち上がってきている。

たとえば、行政・民間それぞれでつながった女性の自立・就労を目指した、相談窓口・訪問支援・居場所づくりから伴走的な支援を行う事業が進んでいる。

そして、民間主導でスタートした地域円卓会議そのものが、今後は民間と行政による協働事業として位置付けられることになった。


地域円卓会議(オンラインも併用)

先日の地域円卓会議の場で、松戸で長く子ども食堂を運営されている方が、こんなことをおっしゃっていた。

「地域で子どもを支援する活動をしていて、モヤモヤや迷いが生まれることは実はたくさんある。それをかかえこんでしまうと、活動を続けるのがしんどくなる。子どもや家族だけではなく、支援者自身が孤立してはいけない。モヤモヤを持ち寄って正直に語ってつながれるのがこの場だとしたら、それはとても素晴らしいことだ」

支援する・されるに関係なく、関わる人みんなが孤立せず寄りかかれて、少しずつあったかくなっていくような輪を広げていけたら良いと願っている。

ついでに、プロジェクトが走り続ける姿に影響され勇気づけられて、わたし自身も近所に友だちをつくり、自分の暮らす街でできるアクションを模索し始めている。

当たり前を変えるには、長い時間とたくさんの力が必要だ。

みんなでつくる社会、みんなでつくる子どもの育ち。無関係の人はひとりもいない。

ひとりひとりが小さな力を出し合うことが、子どもや子育ての当事者、そしてみんなが生きやすくなることにつながっていく。

 


Welcome!子育てつながるセンターco-no-mi

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

松戸でチャレンジを続ける人たちに、ぜひ一度会いにきてください。プロジェクトの拠点である「子育てつながるセンターco-no-mi」は、松戸駅から徒歩5分です。さまざまなイベントも企画されています。

会えなくても、ぜひその姿を思い浮かべて、今後とも応援をよろしくお願いします。

五井渕 利明Toshiaki Goibuchi

日本事業部マネジャー

6年間の地方公務員経験を経て、現在はすべての人が「共に生きたい」と思える世の中を実現したいと願い、複数のNPOや中間支援組織に所属して活動している。いまの日本社会を生きる子どもや家族を取り巻く不条理・生きづらさを少しでも解消したいという思いで、2020年8月かものはしに入職。妻の夫、二人の娘の父。

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