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date2025.06.23
writer石濱 千夏
「社会構造と向き合う」 ふたやすみの活動から見えてきたもの

2024年度の年次報告書の中でご紹介している、「ふたやすみ」の現場責任者・石濱のコラムをあなたとわたし通信でもお届けします。
「大人は自己責任」という言葉の裏にあるもの
こどもはかわいそうだし助けてあげたいと思う。でも、大人は自分でがんばれよって思う
自分で産むって決めたんだから自分の責任でしょ
これは、私がふたやすみの話をしたときに、友人たちから言われて悲しくなった言葉だ。
友人は不寛容でもなく、困っている人がいたら手を差し伸べる人たちだ。それなのに、大人は自己責任だと切り捨てるその心は、どこからくるのだろう。そして私はなぜ悲しんだのだろう。
そこには、ふたやすみ事業が始まってからようやく気付かされた、二つのことが関係しているように思う。
無自覚に得てきた「マジョリティの特権性」
ある利用者の方は、小さいころ読み書きが苦手だった。おそらく当時は学習障害の概念は薄く、特段のサポートもなかったと思われる。そこに直結するかわからないが、いまもその方は漢字が苦手で、社会制度各種の申請には結構な苦痛を伴う。
また、別の利用者の方は、自分の気持ちを表現することが得意ではない。詳しく聞いてないが、家族や友人との関係が安全なものではなかったのかもしれない。パートナーとの喧嘩では、時には怒りが爆発して物が飛ぶこともあった。
私はこれまで、読み書きや自己表現の方法は、自力で手に入れたという感覚を持っていた。でも、それはマジョリティがつくりあげた学校のカリキュラムにたまたま最初から乗れたために、その後も学習制度にのって社会につながった、その恩恵を受けていただけだったことに、ようやく気付かされた。

気付かぬうちに内面化された自己責任論
幼いころ家族に傷つけられ、誰かを頼っては傷ついた経験を重ね、いつしか人に期待しなくなった方や、妊娠中に体調が悪くなっても自分のための通院を控えている方がいるとき、ふたやすみでは、「自分一人でなんとかしなくて良い、自分を大事にして良い」と伝えたくなる。これは、私たちが大切にしていて、目指していることでもある。
でも、自分のなかにそれと矛盾する考えがあって、はっとすることがある。
それは、私が家に帰ってこどもに「自分でできることは自分でしなさい」と言っているときや、自分の同僚に「迷惑をかけてすみません」と言っているときなど、さまざまなレベルで起きる。自分のなかに、自助努力や、他者に迷惑をかけない、という概念が内面化されていることにがくぜんとする。

自分のなかにある社会と向き合うこと
「大人は自分でがんばれよ」という言葉に私が悲しくなったのは、彼らだけでなく、自分のなかにも自己責任論や、特権性への無自覚が潜んでいると気づいたからかもしれない。こうして私たちに内面化された価値観は、困難をつくりだす社会構造をみえにくくさせ、問題を社会ではなく個人に押し付けてしまう。
ふたやすみでは、日々妊産婦さんの人生に関わらせていただいている。
誰かに向き合うことは、想像以上に自分と向き合う作業になるらしく、嫌というほど自分の価値観を知り、内在化された社会を見ては落ち込むこともある。でも、だからこそ、自分のなかにある社会を見つめ、そこに生じた葛藤を言葉にし、そこから、社会構造を変える手がかりを見つけていきたいと思う。

writer

石濱 千夏妊産婦支援事業部マネジャー
大学院で国際保健を学び、青年海外協力隊や開発コンサルタント、ソーシャルビジネスのコンサルタント等を経て、2022年に入職しました。現在は妊産婦の居場所事業の運営を担当しています。山とボルダリングが好きで、家族でボルダリングジムに通っています。娘がもう少し大きくなったら一緒にリードクライミングをすることが最近の目標です。