子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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アフターケアの未来を支える:「えんじゅ」との新たな取り組み

いつもあたたかいご支援をいただきありがとうございます。日本事業部の金井です。
今回は、私たちが事業で携わっているアフターケアのご説明をするとともに、今後私たちが一緒に活動していくアフターケア事業全国ネットワーク「えんじゅ」についてお伝えします。

 

アフターケアって何?誰が関わっているの?

みなさんは「アフターケア」という言葉を聞いたことがありますか?アフターケアとは、施設や里親など社会的養護のもとで育った若者への退所後の支援のことです。制度の改正等(※1)により施設などにいられる年齢は延びていますが、今でも高校を卒業する18歳で退所する若者が多い状況です。

しかし、退所後の一人暮らしでは、施設などにいた時と違い、家事や金銭管理、各種の手続きなど生活に必要なことを自分だけでしなければいけなくなるので、困難を抱える若者もいます。このような若者と連絡を取り合い、生活の状況を確認したり、相談に乗ったりするなど若者の生活に寄り添った活動が、アフターケアです。

私は以前、児童相談所のケースワーカー(※2)をしていました。その当時(2010年前後)はアフターケアが充実していたとは言えませんでした。退所後の若者の支援は施設職員や里親が中心で、できることも施設や職員によってバラバラで、退所後の若者の生活状況がわからないということもありました。

私も何人かの若者が施設から卒園する姿を見送ったことがあります。その時は、卒園を祝う気持ちの一方で、児童相談所の職員としては、退所後の生活に関して何もできない、見送るだけで良いのだろうかという無力さを感じていました。

現在は、施設や里親以外にも、退所後の若者の支援を行う民間団体が増えてきています。自主的に支援を行っていた団体から始まり、社会的養護経験者の自立を支援するための制度も整備され始めたため、アフターケアを行う団体が各地にできはじめています。

※1:20歳に達するまで施設にいられる措置延長、満20歳以降も同じ施設等に入所し続けることが可能になる児童自立生活援助事業がある
※2:児童福祉司。子どもや保護者から相談を受け、必要な支援・指導、および関係調整をする職員。

 

2023年度のかものはしの取り組み
施設職員のサポート、アフターケア事業所の声を聴く

かものはしの「児童養護施設等を出た若者の巣立ちの応援事業」では「親を頼ることができない若者たちにつながりと選択肢を保障する」ことを目指しています。
そのため、私たちは退所後も施設とつながり続けるための取り組みを強化し、施設以外の新たなつながり先を増やすために必要なことを考えるために、この1年間、
・専門家派遣による児童養護施設職員へのアフターケアのサポート
・地域を横断した児童養護施設職員等への合同研修会の運営サポート
・各地のアフターケア事業所への訪問・ヒアリング
を行ってきました。


一つめは、専門家派遣による児童養護施設職員のアフターケアのサポートです。
児童養護施設などの施設にアフターケアを専門に行う職員を置くことができる制度があります。ただ、アフターケアを行うには、児童福祉以外の制度の理解や関係機関との連携など、入所児童のケアとはまた違った知識や経験が求められます。施設によっては、このような業務を担う職員が少なかったり経験がなかったりすることもあるため、私たちはアフターケアの経験が豊富な専門家を施設へ派遣することで、施設職員のサポートをし、一緒に対応を考える機会をつくってきました。


千葉県で開催された東京・神奈川・千葉合同研修会の様子

二つめは、施設職員などが他の施設や地域の情報を共有するために、東京・神奈川・千葉合同研修会の運営サポートを実施しました。2日間で延べ170名以上が参加し、国の動向や各自治体の実践を学び、共有、意見交換することで、それぞれの施設や地域間の交流が生まれ、刺激を受け合い、励ましあえる機会となりました。


沖縄県のアフターケア事業所にじのしずく訪問時の様子

三つめは、アフターケア事業を行っている団体(以下、アフターケア事業所)への訪問やヒアリングです。各団体は成り立ちや活動、地域の他の支援機関との関係などはさまざまですが、それぞれの強みを活かし工夫をしながら事業に取り組まれていました。どの団体もたくさんの相談に決して多いとは言えない職員で対応していて、各都道府県に1ヶ所という体制も多く、全国各地のアフターケア事業所同士のつながりが大事だということが見えてきました。

これらの活動を通じて、若者たちにとっては、アフターケアを行っている施設や里親に加え、アフターケア事業所の支援も充実させることが重要であると考えました。そして、アフターケア事業所の活動をサポートするために私たちに何ができるかを検討していた時に、全国各地のアフターケア事業所が加盟しているネットワーク組織「えんじゅ」と出会いました。

 

アフターケア事業全国ネットワーク「えんじゅ」との出会い
〜現場が現場に集中するために、中間支援が必要〜

えんじゅ」は2018年に設立され、アフターケア事業所が集い、学び、支えあうことを通じ、社会的養護を受けた者が等しく権利を保障され、豊かな関係性と多様な選択肢をもって幸福を追求することのできる社会を形成することを目的に活動しています。

私たちは2023年11月に「えんじゅ」の副代表理事でもあり、大分県でアフターケア事業を行っている特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネットの矢野茂生さんのもとを訪問しました。

当時は施設などを退所した若者支援の充実のために、何ができるかを悩んでいた時期で、アフターケア事業所にどのようなサポートができると良いかを検討していました。また、アフターケアを充実させるには事業所の数が足りず、制度を活用できていない状況もあることから、自分たちで事業所を運営する必要もあるのではとも考えていました。

矢野さんに今後の事業について相談した際に、

「政策提言や資金支援など、中間支援ができる人が不足している。現場は現場に集中できるように、その役割を担う人が必要。かものはしは今から現場をやるよりも、中間支援をする役割を担っていただく方が全体の向上につながる」

という言葉をいただいたことが、今後の事業方針を決定するうえでの礎となりました。


えんじゅ理事とかものはしスタッフの集合写真


かものはしのこれからの取り組み
〜全国にアフターケアを広げ、若者たちに必要な支援を届けるために

私たちが目指す「親を頼ることができない若者たちにつながりと選択肢を保障する」ための第一歩は、全国にアフターケア事業所があることで、若者たちが必要な支援を受けやすくなることだと考えます。そして全国のアフターケア事業所をサポートすることは、若者たちへの支援の充実につながると考えていた私たちに、「えんじゅ」から一緒に活動してほしいという依頼がありました。

熱意を持つ方々からの依頼で、目的も合致した私たちは喜んでお引き受けすることとしました。2024年度からは「えんじゅ」の事務局を担いながら、全国のアフターケア事業所を支援するための交流や学び合いを進めるとともに、加盟団体の皆さまの現場の声をまとめて国や自治体に届ける活動も行っていく予定です。


えんじゅ理事とのミーティングの様子

 

令和6年4月から始まった社会的養護自立支援拠点事業は、対象者が社会的養護経験者「等」となりました。「等」とついたのは、これまでの社会的養護経験者に加えて、施設には入っていなかったけど、一時保護の経験者や過去に虐待を受けた経験がある人も対象になったからです。これからは虐待などにより親や家族を頼ることのできない、より多くの若者につながることができるようになり、これまで以上にアフターケア事業所の役割は大きくなっていきます。

私たちは「えんじゅ」に加盟する団体の皆さまと一緒に、多くの若者にさまざまなつながりが保障され、安心して生活ができる社会になるために必要なことを考え、行動していきたいと決意しています。

金井 宏之Hiroyuki Kanai

日本事業部シニアスタッフ

児童福祉に携わりたいと思い、社会福祉士として地方公共団体の児童相談所やこども家庭支援のケースワーカーとして勤務。すべての子どもが将来に希望を持てる社会をつくりたいという思いが増す中で、かものはしの日本事業のミッション「誰もが生まれてきて良かったと思える社会をともにつくる」に共感し、2022年12月入職。フルマラソンのサブ4達成に10年以上チャレンジしている。

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