子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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インド

人身売買を抑止するには、一体誰が鍵を握っているのか。社会・法的要因から理解する調査を実施。

みなさん、こんにちは!
今回は、かものはしのインド事業の一つをご紹介します。
かものはしが、2013年度にインドで実施している事業のひとつに、
「マハラシュートラ州における人身売買抑止力を
社会・法的要因から理解する調査」
があります。
つまり、人身売買を抑止するためには、誰が何が大きな役割を果たすのか
そして、邪魔しているものは一体何なのか、ということを
社会や法的な要因から理解するための調査ということです。
※マハラシュートラ州とは、西インドに位置するインドの州のひとつ。
 州都は、ムンバイ。

2012年度にかものはしは「Save The Children India」
(以下、「STCI」と呼ぶ)と共同で、
警察に対して人身売買を取り締まるための研修を行いました。
なぜなら、警察の取締り力が強化されることにより、
人身売買の加害者は罪を認め償い、
被害者は法的正義を勝ち取れる
、と考えたからです。
つまり、警察が加害者をきちんと取り締まる力を持つことにより、
加害者は逮捕され、犯した罪を認め償い、
被害者は加害者を有罪にすることができる、ということです。
事業終了後、研修を受けた警察官を対象に再調査をした結果、
人身売買を「抑止する」力を最大限発揮するためには、
警察以外にも重要なプレイヤーがいるのかもしれない

ということに気づきました。
したがって、STCIと前述の調査を実施することにしたのです。
今回の調査では、
人身売買の被害者、被害者の家族、
その被害者のケースを取り扱った警察官、検察官、裁判官、
そして未成年福祉委員会の6グループを対象に、
加害者が有罪になったケース、無罪になったケース、
そもそも警察に供述調書を書いてもらえなかったケース、
起訴状まで出来ておきながら裁判が始まらないケース
などに分けて調査をしています。
今回は、被害者へのインタビューの結果の一つを事例として
ご報告したいと思います。

私を連れて来た友人は、来た道を戻っていった。
その日から、私は売春を強要させられた。

彼女の名前は、アミナ(仮名)。
バングラディッシュのダッカ市出身の17歳である。
家族は、母と男兄弟4人の6人家族だ。
彼女が年頃になり、結婚することが決まったとき、
結婚持参金を用意するために、アミナの母はローンを組んで借金をした。
しかし、そんな彼女の結婚生活は4ヶ月しか続かなかった。
IMG_4042.JPG「夫には他に好きな人がいました。
義母に、ものすごくいじめられました。
私は夫と暮らす家に帰ることも許されなかった。
だから夫とは離婚しました。
離婚して実家に戻った後は、学校に通い、
中学3年生のクラスで勉強をしました。

でも結婚生活が壊れてしまったこと、
自分の結婚のために、家族が借金を負ったことに対する悲しみは
ずっと消えませんでした。」

そんなある日、クラスメートのルクサーナ(仮名)が、
コルカタにあるキレイなお店で働かないかとアミナを誘った。
自分のために借金を負った母、兄たちを想うと
申し訳ない気分でいっぱいになり、アミナも働きたいと思ったのだ。
でも、母や兄たちが許してくれるわけがない。
IMG_1915.JPG「だから、私は家族の誰にも何も言わずに、ルクサーナと家を出ました。
私たちは歩いて国境を越え、
ルクサーナは私をコルカタまで連れてきてくれました。
ここで降りるのだとばかり思っていたのですが、
彼女は私を電車から降ろしてくれず、
コルカタからは、他の男性も一緒に電車に乗ってきて、
気が付いたら、私たちはムンバイまで来ていました。

ムンバイに着くと、ルクサーナは私にその男と降りるように言い、
彼女は来た道を戻っていってしまいました。

私には何が何だかわかりませんでした。」

India2013spring 021.jpgその後、アミナはムンバイのアパートに連れて行かれ、
10〜15人くらいの少女たちと一緒に寝泊まりしていたが、
ある日、ラジュという男がやってきて、少女たちに売春を強要した。
「ラジュはプラサードという男の客引きから紹介される客を、
私たちに有無を言わせず取らせました。
1日に2〜3回、いつも同じオートに乗せられて、
複数のホテルに連れて行かれ、売春させられました。
こんなことをさせられるのは、どうしても嫌で家族に助けてもらいたくて
でも、家に戻ることも電話することも決して許されなかった。

一度逃げようとしたけれど、電車の駅でラジュに見つかり、
元の場所に連れ戻され、虐待されました。」

その2ヶ月後、とあるNGOのスタッフによって、
アミナたちは売春を強要されていたホテルでレスキューされたのだった。
IMG_2591.JPG※写真はイメージです。

客として来ていた警察官が何人かいた。
私たちを見ると気味悪く笑った。

「ラジュは、私たちにコルカタ出身で、
年齢は18歳だと言うように指示していました。
だから、レスキューされ、警察署に連れて行かれた時、
私は警察官にそのように言いました。」

警察は客引きでその場にいたプラサードを平手打ちし、
彼とオートドライバーを逮捕した。
しかし、ラジュはその場にいなかったため、
逮捕されたかどうかは彼女たちは知らない。
レスキューされた時、警察はその場にはいなかったが、
NGOスタッフがアミナたちを近くの警察署に連れて行った。
「そこには、私たちのお客である警察官が何人かいました。
彼らは私たちを覚えており、私たちを見ると気味悪く笑いました。
しかし、今までの環境に比べれば、警察署は居心地が良かった。
なぜなら、警察署内にあるコンピューター室で一晩を過ごし、
女性の警察官が一緒にいてくれたからです。
私たちは睡眠をとることを許されました。」

裁判のその後は知らない。

供述調書(FIR)は、女性警察官とNGOのスタッフによって記録された。
アミナは加害者全員の名前を伝えた。
しかし、出身地と年齢は偽った。コルカタ出身で、年齢は18歳であると。
それは、なぜか。
「だって、一緒にレスキューされた女の子に、
バングラディッシュ人であることは隠すようにと言われたんです。
バングラディッシュ人だと言ったら、警察に逮捕されるかもしれないから。
でも、警察やNGOスタッフは、
人身売買の被害にあったことや搾取されていた状況、
搾取していた人について私が話すように、励ましてくれました。
いい人たちでした。

でも、あれから裁判所で、私が伝えた加害者の裁判が始まっているのか、
罪が確定したのか、私は裁判の最新の状況についても何も知りません。

だって、レスキューされた後、1度裁判所へ行きましたが、
その後は全く呼ばれていないから。」

スクリーンショット 2013-11-02 16.49.20.png※写真の女性は、このストーリーに登場する女性ではありません。
今回のケースは、
被害者の少女が証言をし、供述調書の記録を行いましたが、
裁判がきちんと行われなかったケース
です。
また、レスキュー後に警察署で過ごす際、
被害者と加害者が同じ部屋に入れられ、
そこで加害者に脅されるケースも少なくありません。
このように、人身売買被害者が法的な正義を勝ち取れない現状が
数多く存在します。
それは一体なぜなのか。
誰がそうさせているのか。
これらを解明しなくては、この問題は前には進めません。
被害者を守るため、少女たちに正義をもたらすために、
私たちかものはしプロジェクトはSTCIと協力し、
この「人身売買抑止力を社会・法的要因から理解する調査」を進めます。
そして、来年初旬にはその結果が出ると思うので、
みなさんにまたその結論をお伝えしたいと思います。

清水写真.jpgライター紹介:清水 友美
インド事業部シニアプログラムマネージャー。2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。

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