子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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インド

人身売買被害者に正義をもたらそうとする警察官と、その裏にある被害者が抱える大きな影

みなさんは、インドの警察に対し、

どのようなイメージをお持ちですか?

police training1-2.jpg
インドの警察は、汚職や賄賂にまみれているのでは?
と思う人もたくさんいるのではないでしょうか。
人身売買被害者が、加害者グループを有罪にし、
正義を勝ち取るためには、
警察の果たす役割はとても大きいのです。
かものはしは「Save The Children India」(以下STCIと呼ぶ)と
共同して、2012年度に警察訓練を実施しました。
今回は、その警察訓練を受け、苦悩を抱えながらも、
被害者に正義をもたらそうと一生懸命裁判に挑んだ
ある警察官について、みなさんにお話したいと思います。

母と離れ、叔母との暮らし
でも、いつからか売春宿にいた

その警察官は、被害者プージャ(仮名)という女の子を
売春が横行していた劇場からレスキューしました。
その後、1年近くにおよんで加害者たちを取り調べ、
彼らの罪を立証するために、裁判に携わってきました。
プージャ故郷.JPGのサムネイル画像
プージャは、実の母親とトラブルが絶えず、大事にしてもらえなかった。
手に負いかねた母親が、叔母の家にプージャを送り、
彼女は、その叔母に育てられていました。
しかし、ある日彼女はその叔母によって売春を強要させられ、
客を取らされ続けたのです。
それは、長い間続きました。
プージャ故郷2.JPGのサムネイル画像
警察官は、彼女が売春をさせられていた劇場からレスキューして保護し、
その後、事件に関わる一連の捜査、供述調書の作成に取り組みました。
できる限りの証拠を集め、取り調べを行い、
結果として、叔母を含めた加害者及び客の9人が逮捕されました。
プージャも、「逮捕された売春関係者を有罪にしたい」
と裁判へと臨んでいました。

彼女の中の葛藤
警察官の正義感と愛を求めた彼女への思いやり
いろんなことが、哀しいまでに複雑に絡み合っている

しかしながら、その裁判の法廷の場でプージャが証言したことは、
誰もが想像もしていなかったことでした。
それは、「警察が裁判所に提出した供述調書には間違いがあり、
加害者は、私(プージャ)に売春を強要していない」

という警察への非難と証拠のくつ返しでした。
警察側にとって想定外のことでした。
なぜ彼女は
このような発言をするに至ったのでしょうか。

その時は、プージャは全く心を開かず、警察にも、
保護先でリハビリをしていたSTCIの関係者にも、
真実を話すことはありませんでした。
差し替え写真候補1.JPG※STCIのスタッフと本木・清水でのミーティング
しかし、今年度始めたSTCIの調査(参照:前回のブログ)を
進める中で意外な事実が発覚しました。
この警察官は、せっかくプージャを助け出して裁判を始めたにも関わらず、
加害者が無罪になってしまったことを大変悔やんでいました。
そんな彼は、インタビューの時、こう語ったのです。
「実は、プージャの母親は、
 過去にわが子を自らの手で殺した罪で逮捕状が出ており、
 その後、逃亡して行方がわからなくなっています。
 
 つまり、プージャの妹が、実の母の手によって殺されたのです。
 プージャはそのような家庭環境の中で育ち、
 母親がいない彼女にとって、唯一愛情を持って世話してくれたのが、
 彼女を売春宿に売ったあの叔母でした。
『逮捕された売春宿関係者を有罪にしたいと
 プージャも裁判に臨んだものの、もし自分が真実の証言をしたら、
 叔母を含めた全員が有罪になってしまう。

 自分にとって、愛情を持って育ててくれた唯一の存在である叔母だけは、
 救いたい。』という思いから、
 プージャは法廷の場で証言ができなかったのではないかと思います。」

彼女を助け出し、その加害者を有罪にするために、
必死に取り組んできた警察官にとって、それは絶望的なことでした。
「私たちは、捜査に多くの精力を注ぎ、有罪判決を強く望んでいました。
 私は、捜査の途中で起こったどんな誘惑や障害にも負けませんでした。」

その思いとは裏腹に、
結果として、この事件は無罪判決となりました。

プージャはどんな気持ちで無罪判決を受け止め、
そしてどんな気持ちで叔母さんについて戻る
決心をしたのだろう。

そしてプージャは18歳になると
シェルター(被害者の少女たちを保護している施設)を出され、
あの叔母のもとへと再び戻っていってしまったのです。
IMG_2515sample.jpg※シェルターでの職業訓練を受けているプージャの写真
「私たちは、警察官の責務としてプージャを救い出しましたが、
 彼女にとってみれば、保護されなかった方がよかったのかもしれない...」

自らの手で人身売買の被害から救い出し、
社会復帰させようとした被害者が、
再び同じ被害に陥る危険があるところに
自ら戻っていかざるを得ない。
プージャの背景が背景なだけに、この警察官の気持ちを考えると、
とても複雑で、やりきれない思いでいっぱいになります。
しかし、このような様々な苦悩を抱えながらも、
「被害者に正義をもたらす」というその強い意志を持って
この人身売買問題の解決のために、
真剣に取り組んでいる警察官がいるのです。

かものはしはこのような警察官を1人でも多く増やしていくために、
警察への訓練を行い、活動していきます。
インド警察かも1.png※共同代表本木(写真中央)とインド警察

スクリーンショット 2013-12-17 0.51.36.pngライター紹介:花角 紀子
大学在学中は難民問題に関わる一方、子ども×ボランティアを通してアジア・アフリカの国々へ。現在は卒業までの半年間、インド事業部にてインターン中。

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