子どもが売られない世界を作るため、寄付・募金・ボランティアの協力によりカンボジア・インドをメインに活動する国際NGO

2015年10月20日

人身売買の被害者が抱える『社会的スティグマ』と精神への影響

こんにちは、インド事業部の福井です。
最近、かものはしのインドのパートナーNGOであるサンジョグが
2本の人身売買被害者に関するレポート『Stigma Watch』と『Bringing It All Back Home』を発表しました。

(※サンジョグについては2014年09月「強さ、戦略、そして豊かな発想を兼ね備えた、3つのイノベイティブなインドパートナー団体とは?」参照)

今回は、そのレポートを通して人身売買の被害に遭ってしまった女の子たち(以後、サバイバー)が、
売春宿からレスキューされて村に帰ったあとに出会う、
様々な困難やスティグマについてご紹介したいと思います。

調査の背景

インドの道路にて撮影

レポートのもとになった調査は、
2014年に西ベンガル州北24区でサバイバーが立て続けに
自ら命を絶ってしまったできごとに端を発しています。

サンジョグが提供したひとつのリハビリテーションプログラムが終了し、
次のプログラムが始まる前に発生した一連の出来事は、
サンジョグにとっても私たちかものはしにとっても大変ショッキングなものでした。

売春宿からレスキューされた後、心の回復と正義を求めてともに歩んできた仲間の死。
他のサバイバーにとっては何よりも衝撃だったのではないかと思います。
もしかしたら、仲間を失ってしまったという事実が、
一件ではなく連続する自死につながってしまったのかもしれません。

サンジョグは事態を重く受け止め、悩みました。
その末に、再びこのような事態を再び招かないために、調査を行うことを決めました。

協力したサバイバーは80名。インタビューだけでなく質問票や精神医学を用いた考査などを通して、
彼女たちが村に帰宅した後、どのような心理状態にあり、
どのような葛藤を抱えているかに真剣に向き合いました。

また、家族やソーシャルワーカー、警察、医療関係者、村会議員など、
サバイバーが村で接する人々73名からも聞き取り調査を行い、
サバイバーを取り巻く環境をより包括的に理解するために調査を進めました。

インドの農村地帯が抱える問題

インドの農村地帯の様子

調査チームがサバイバー自死の原因究明の手がかりにしたのは、『スティグマ』の存在でした。
どのような場面で、誰によってスティグマが課され、強化されているのか。

また、家族などの身近な人や支援者であるソーシャルワーカーとの関係が、
彼女たちの日常や心理状態、あるいは、回復にどのような影響を与えているかを描き出す試みをしました。

スティグマとは

社会や他者が個人に付けた、ハンディキャップや不名誉なレッテルのこと。
本来は、奴隷や犯罪者に付ける烙印を指す意味だった。
現在の使われ方は、1963年に社会学者のゴフマンが『スティグマの社会学』で示したものである。

ここで、信頼していた身近な人たちによって売られてしまった女の子を想像してください。

彼女たちには、自由に村を行き来する手段が限られています。
村外れに住んでいた場合、移動のための交通費が必要ですが、
家計を管理しているのは親や夫であることが多く、彼女たちがに自由に使えるお金はありません。
実際には、これは彼女たちだけに限られた話ではなく、そもそもその家庭に金銭の余裕がないのです。

生活が苦しい。
だから、『ここではないどこか』へ彼女たちを連れ出してくれるもの
"ロマンス"であったり、"職業機会"であったりに彼女たちが魅了されるのは自然な流れかもしれません。

また、困窮している家計の一助になりたいからこそ、
「街に出て働こう」と思うのも
家族を思う責任感やあたたかい気持ちからくるのでしょう。

そして、誰しもが抱く『普通のしあわせ』に少しでも近づきたいという思いで一歩踏み出した結果、
彼女たちはその過程で人身売買の被害に遭い、
自分の意思や希望、純真さを徹底的に削がれるような経験を強いられてしまいます。

そして、運よく売春宿からレスキューされたとしても、そこからまた新たな試練の日々が始まります。

被害者への偏見と村社会から押される烙印

干ばつや豪雨といった天災に煩わされることが多い西ベンガル州の貧しい地域では、
カースト制度や男尊女卑を温存しながらの共存生活が営まれています。

そこには、人々が、時にひどく不平等で理不尽な現実に甘んじて、
調和していくことを強いるような社会があります。
それらは伝統という名に置き換えられ、村の人たちの生活を形作る価値規範となっています。

そのような環境で暮らす村の人たちの中には、
サバイバーは『伝統的価値観から外れた女性』と映り、彼女たちを忌み嫌う者もいます。
そして、様々な色眼鏡で彼女たちを見ます。

性を売った女性、
大勢の見知らぬ男性を相手にしていた女性、
村社会の男女の価値観を逸脱した女性、
ゆえに、心も体もけがれてしまった女性、
自分の身の丈以上のものを望んでしまった分別のない女性...という風に。

そして、彼女たちを仲間外れにするだけでなく、罵ったり乱暴したりするのです。

また、矛先はサバイバー本人だけでなく家族に対しても向かいます。

貧しいから
文字の読み書きができないから
カーストや宗教的に少数派だから
父親に家計を支えるだけの能力がないから...。

過去の揉め事を引っ張り出して、これを機に一家をおとしめようとするものもいます。

サバイバーの心を傷つける、身近な人からの差別

インドの子どもたち

レポートによく出てくる『Stigma by Association』という言葉。
これは、親族や友人などが、サバイバーと関係があることを理由に
コミュニティの中で偏見や差別されることを指します。

そして、彼らは不当に課されたスティグマを跳ね返すことも自身の中で消化することもできず、
結果的にサバイバーに辛くあたってしまいます。

あるサバイバーは、次のように言いました。

「村の人は色々と私の悪口を言います。
そういう時に母はきまって『あんたなんか帰って来なかった方が良かった』と言うんです。」

別の女性は、
「父が私のことを連れ戻してくれたんですが...
今はしばしば『お前は、私の人生を台無しにした』とののしります。」

突然いなくなってしまった娘を探し求めていた両親との再会。
両親の多くは、辛い経験をして故郷に戻ってきた彼女を受け止めようとします。
けれども、彼女は両親が知っている娘であるだけではなく、
両親が知り得ない壮絶な経験をしてきた一人の女性でもあります。

また、夫に「お前のせいで世間に顔出せないじゃないか。」と言われ、
外出する自由を奪われ、家庭内暴力に曝される日々を送る女性もいます。

理解して欲しい身近な人からの心無い発言や暴力は、
人身売買被害に遭った後、売春宿で過ごした地獄のような生活と同じくらい、
もしくはそれ以上に、彼女たちの尊厳と人格を壊していきます。

そして、家族が村社会から負の烙印を押されてしまっていることに気付き、
それを少しでも和らげるために家族や村の風習に溶け込む努力をしているサバイバーは、
時に取り返しがつかないほど自らを追い詰めてしまう事態に陥ってしまうのではないでしょうか。

スティグマから解放されるために

レポートより調査結果

(サンジョグのレポートより抜粋)

実際、今回の調査に参加したサバイバーの8割は、
家族から認められることが大切だと考えています。
また、実に9割以上が村社会で認められることを重要だと感じています。

そういった思いを反映してか、家族や村社会に受け入れられたいと思うために、7割のサバイバーは、
自分のことを悪く思っていると感じている人たちが満足するように立ち振る舞った経験がある
と答えており、涙ぐましい努力をしていることが伺えます。

サバイバーが、家族や社会に受け入れられたいと思えば思うほど、しんどさは増していきます。

そして、村の価値観に基づく『あるべき姿』を基準として、
「完全ではない自分」「普通の女の子ではなくなってしまった自分」というように、
『◯◯ではない』という引き算式で自分は何者なのかを考えざるを得ないような状況があります。

このような状況があるからこそ、かものはしは、インドにおける課題に取り組んでいきます。

『完全ではない自分』と感じている、
声にならない多くの女性たちの思いに寄り添える私たちでありたい。

そして、立ち上がることを決意し、
「完全であろうがなかろうが、今の私はこれまでの経験を生き抜いてきた自分」
という"サバイバー"としての積極的なアイデンティティを、
自分という人間の一部に位置付けていくことを望む女性を応援し、ともに歩んでいきます。

ライター 福井陽名 ライター紹介:福井 陽名
インド事業部アシスタント・マネジャー。アメリカの大学院で人の移動について実証研究を行い、帰国。2015年よりかものはしプロジェクトに参画。
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