子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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インド

被害者の自殺とエンパワーメント

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※写真の女性は本文とは関係がありません。

こんにちは。インド事業部の清水です。
2014年も残り少なくなりました。
この1年は、皆さんにとってどんな1年だったでしょうか?
私にとって今年は信じられないスピードで過ぎていきました。
特に9月のインド出張直前から、いくつかのことがインドの現場で起き、
私はその度にその「瞬間」に自分の心と気持ちを寄り添わせ、
集中させることでなんとか乗り切ってきました。
でも、とても大変な1年でした。
インド事業部の1年を締めくくるブログとして、
私のこの投稿が適切なのか、最後まで迷いました。
しかし、かものはしを応援してくださる皆さんとこの現実を共有することで、
来年も地に足をつけて歩んでいく礎(いしずえ)にしたい、
そんな思いで書くことにしました。

レスキューから村に戻るまで

今年4月から8月の間に、私たちが支援している西ベンガル州南24区の隣、北24区(地図参照)で
サバイバー(人身売買被害者)の自殺が相次ぎました。
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人身売買の被害にあった彼女たちは売られた先で、性的搾取と虐待、暴力の中で必死に生き抜き、
いつ終わるか分からない闇に耐えてきました。
やっとのことで警察とNGOにレスキューされた彼女たちは、
NGOが提供するリハビリテーションのプログラムに参加し、
心に受けた傷を回復する一方で、基礎教育や職業訓練を受けました。
このようなリハビリと並行して、医療検査を受けたり、
警察に調書を取られたり、裁判に証人として出廷したりするなど、
レスキューされた後も、
彼女たちにとって決して心地よくないプロセスを生き抜いてきたはずです。
やっとの思いで家族の元に戻り、コミュニティに戻り、
地獄から這い出してきた彼女たちを待っていたはずの「日常」
そこにあったはずのほっとする関係性
しかしながら、現実はそれほど甘くなく、
そこから茨の道が始まることは、先にブログで書いた通りです。
(2014年2月「売春宿から故郷に戻っても続くインド少女の苦しみと救い」参照)
彼女たちの自殺は、「声を上げられない弱者」が村で受けた差別を苦に
人生を諦めた結果なのでしょうか?

希望を取り戻した被害者が立ち向かう大きな壁

かものはしは、司法制度がちゃんと機能し、
被害を受けたサバイバーが力をつけて社会へ復帰していくことが、
この問題を解決していくうえで大切だと考え、
司法システムの強化とサバイバーの回復プログラムを支援しています。
その一環として、被害者を多く出している地域で、Community-based organization(※CBO)と一緒に、
村に戻ったサバイバーの心の回復とマイクロビジネスを支援しています。
(※CBOについては、2014年7月「CBOってなんだろう?」参照)
村に戻ったサバイバーたちは、通常自分の家に住むので、
バラバラに暮らし、村の中で孤立しがちです。
私たちは、サバイバーが定期的にグループで会うようにし、
皆で自分の中に抱えた「恥」を受け止め、
レジリエンス(※)を取り戻すプログラムを支援してきました。
(※レジリエンスについては2014年6月「逆境とレジリエンス」参照)
女の子たちが売られる背景には、
まだまだ根強い農村における男性優位の考え方や、
女性の自己決定権の低さが要因としてあります。
レジリエンスを取り戻した彼女たちは、勇気と希望と夢を持って、
自分の父を、兄を、夫を、村長を、コミュニティを変えようと働いてきました。
今回自殺をしたサバイバーたちは、私たちのプログラムの直接の参加者ではありませんが、
かものはしのパートナー団体が隣の地域(北24区)で行っている、
同様のサバイバー回復プログラムに参加し、夢と希望と勇気をもって、
自分の周りの環境を変えようとしていたメンバーでした。
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サバイバーが自分の身の回りの家族や社会を変えようとするとき、どれほどの勇気がいるだろう。
※写真の女性は本文とは関係がありません。


11月にも、同じ北24区のサバイバー回復プログラムメンバーが自殺未遂を起こしました。
彼女もまた、回復プログラムを経てレジリエンスを取り戻し、希望を持って
「私は人生を変えたい。皆と、変えるって約束したし、変えられるって言ってもらえた」
そう言って、お父さんに想いをぶつけたそうです。
しかしその想いをお父さんに受け止めてもらえず、絶望して自殺未遂を起こしました。
なんとか一命は取り留めましたが、
彼女はそれから誰とも口をきかなくなってしまいました。
彼女と一緒に回復プログラムのプロセスを歩んできた他のサバイバーも、
ソーシャルワーカーも、NGO関係者も、
夢と希望を与えて続けてきた罪悪感でいっぱいになり、
真っ暗なトンネルの中で身動きがとれなくなってしまいました。

一緒に歩むということ

「エンパワーメント」
自分が持っている力を再認識し、取り戻して、社会の中で力強く前へ進んでいくこと。

それはどんなに周りの人間が「頑張れ!」といい続けても、
最後は本人にしか達成できません。
でも、周りに誰かがいてくれたら、
「大丈夫、一緒に歩もう」と手をとってくれたならば、
少しだけ勇気をもって前へ進むことができるかもしれません。
今回の件は、もしかしたらサバイバーが力をつけすぎて、
環境を変えようとしたサバイバーの変化に周りが追いつけず、
社会と摩擦を起こした結果起きてしまったのかもしれません。
これからもこのような摩擦は起きない、とはいえないかもしれません。
でも、私はこれまでずっと、手を握り、励ましてくれる周りの人たちに助けてもらってきました。
だから、今度は私がそうやって誰かに寄り添うことで、
サバイバーたちが力を取り戻せるといいなと思っています。
エンパワーメントは簡単に起きることではないことも、
自分の非力さもよく分かっています。
でも、私は諦めないで「大丈夫、一緒に歩みだそう」と、
手を握り続ける人でありたいと思います。

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一緒に歩む仲間がいる、というのはとても心強い。
(右から、本木、Sanjogの代表Uma氏、清水、Sanjogの副代表Roop氏、SanjogのプログラムマネージャーNisha氏)


2015年1月。私は、インドへ出張します。
どんな仕組みにしたら、サバイバーが尊厳と夢と希望を取り戻して、
社会と共存できるエンパワーメントが起きるのか、再度見極めてきたいと思います。

清水写真11.jpgライター紹介:清水 友美
インド事業部シニアプログラムマネージャー。2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。

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