子どもが売られない世界をつくる | 認定NPO法人かものはしプロジェクト

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インド

赤線地帯

私がインドでみた、人身売買の"現場"をお伝えしたい。

このブログを通して伝えたいこと。
それは、フィクションでもねつ造でもない、「現実」だということ。
とんでもなく「恐ろしい世界」だということ。

そして、
なんでもないビルの角を曲がった先にある世界だということ。

"赤線地帯"(red light area)をご存知だろうか。

所轄の警察が事実上売春を許容・黙認した店が連なる一帯のことを指す。

一説によると、かつて売春宿の表には赤いランプが下げられていて、そのランプがそこが売春宿であるという合図だった。それが連なり赤い線のようにみえたことから"赤線"と呼ばれるようになったらしい。

ビルの角を曲がると、赤線地帯はあった。

想像してほしい。角を曲がった先に広がる"赤線地帯"を。

3〜4階分ほどの高さのあるビルが隙間なく立ち並び、
そのどれもが古くて嘘くさい。

空を隠すように、またそうして私を見下ろして,
もう目を離さないように売春宿はそびえ立つ。

だらしなく窓があいていて、今にもきしむ音や息づかいが聞こえてきそうだ。

そこらじゅうの窓から手が伸びてこちらに向かって手招きをしている。

まだ昼過ぎだというのに、
空気はなんだか湿っぽくて薄暗い。

息が吸いにくかった。

バクッ。 バクッ。 バクッ。

心臓の鼓動が一気に速まる。

自分の顔のすぐ横に、
表に立っているマダム(売春宿のオーナー)や女の子たちの顔がある。

人ふたりが肩を並べて歩くのが精一杯な道幅の両脇に、
ずらーっと女の子たちが座ったり立ったりしたまま、
行き交う男たちに声をかけている。

ふと気付くと、そこにあるほとんどの目が舐めまわすよう私を見ていた。
思わず下を向いた。

自分の手が、膝が、がくがく震えていた。

自分の胸の鼓動が外から聞こえてくるほどうるさかった。

実際の肌の色からはかけ離れた白さで塗られた顔。

表情を隠すかのように濃く塗られたアイライン。

不自然なほど金色に輝くアクセサリー。

最大限露出された、肌の透ける素材の民族衣装。

真っ赤に塗られた唇が気怠そうに動き、私に向かってなにか言っている。

そのまま視線をあげて目が合うと、もう二度と目をそらせないくらいに私を睨みつけていた。

そんな目で見られたのは、はじめてだった。
身体がかたまってしまった。
足が、動かない。
手が、膝が、肩が、震えた。
激しい目眩いがする。
彼女は明らかに未成年だ。

――どうしよう、助けなきゃ

そう思った。
胸の鼓動がさらに加速する。

「はぐれないように!」
私をここへ連れてきてくれた人にそう声をかけられた。

身体が動かなくなってから、本当に一瞬の出来事だった。

しかし、私にはとても長い時間に感じられた。
結局私には何も出来なかった。
自分の身すら、その場では守れないことを実感した。
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私はあの時、自分を睨みつけていた女の子を、あの場から助け出したいと思った。

でも、彼女が本当に助け出されることを望んでいたのか私は知らない。

警察官でも検察官でもない私には、
現実的に助け出すことが不可能なことも分かっていた。

だから私には助け出すことはできなかった。

息が顔にかかる程の距離に居たのに、私には助け出せないのだ。

また私は彼女を、いまの彼女の人生から助け出したいとも思った。

そして、それがあの時に出来なかった最大の理由は、
「もう彼女がそこに居た」という事実だ。

もう、 遅いのだ。

もし彼女が自分の意志と反してあの場に居たとしても、
すでに彼女の人生は変わってしまったのだ。

助け出された後にも茨の道は広がり、ましてや無かったことになど、
できないのだ。

あの日あの場所を訪れてから、何度も同じ場所に立っている夢をみる。

夢のなかでも彼女は私を睨みつけ、
また私はなにもできずに立ちすくんでいる。

今日も彼女は昼夜かまわず客を取らされているだろう。

あの瞳はなにを伝えたかったのだろうか。

いくら考えても、いくら想像しても、分からない。

ふとした瞬間にも、思い出す。

その度に私は、
あの時感じた恐怖と同じだけこみ上げる悔しさに、震える。
どれだけ時が経ったとしても、私は一生彼女の瞳を忘れないだろう。

忘れたくても、忘れられないのだ。

この問題について、詳しく知りたいかたは
10/8 20時~@かものはし恵比寿オフィスにて行われる
「かもトーク」にぜひご参加ください。
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IMAG1479 (1).jpgライター紹介:谷 杏奈
高校2年生のときに「子どもが売られる問題」に出会い、以来問題解決のために様々な視点からアプローチしている。現在は大学3回生を1年間休学し、問題の最前線に取り組めるインド事業部にてインターン中。

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